松田: 先ほど「おいしい魚」という話になりましたが……、ところで岡田さん。目の前にカツオを1本、ドンと出されたらさばけますか?
岡田: いや、ちょっとできそうにないですね。
松田: そうですよね。「今日はいいカツオが入りました」と持ってこられても、困る人は多いでしょう。それが生鮮食品の中で鮮魚を扱うことの大きな違いだと思います。魚は、サプライチェーンのどこかで加工が必要です。だからこそ、料理人さんが存在するわけです。彼らが求める最適な流通構造は何だろう? と考えたときに、一番合理的かなという形を追い求めた結果、それを実現するにはITが必要となりました。
岡田: データを駆使した受発注のマッチングによって、既存流通より1日早く鮮魚を店舗に届けられることが八面六臂のキモでした。新鮮さは「おいしさ」につながると思いますが、それ以外にも何か特徴がありますか?
松田: 数十グラム単位から発注できることです。季節にもよりますが、カツオを1本で仕入れると1キロ800円くらいです。カツオという魚はすぐに酸化して、味が落ちてしまう。例えば、金曜日の夜ならば1本単位で仕入れても全部さばけるお店だとしても、月曜日から水曜日の売り口は悪くなります。同じように1本仕入れても、月曜日には半身が残って、火曜日には4分の1が残って……。では、水曜日にカツオを食べたお客さんは、どんな感想を抱くと思いますか?
岡田: この店のカツオは、まずい?
松田: そうです。2度とカツオを食べたいとは思わないでしょうね。ましてや、初めてカツオを食べたとすれば、その店の味が悪いのではなくて、「カツオという魚はまずい」と認識してしまいます。「食べる」ということは、それくらいクリティカルなものです。だからこそ「飲食店」は常に真剣勝負でなければいけない。
「おいしい」という食の本質を追求する料理人さんとしては、常に「おいしい」状態のカツオがほしいわけです。今日、4分の1しか出ないのであれば、1キロ1000円くらいに値段は上がっても4分の1だけを仕入れたいのです。その200円の差を負担してでも、「カツオっておいしいよね」という食文化の維持に成功できる店でないと、生き残っていけないでしょうね。
岡田: 安く、大量に仕入れて、お客さんに格安で料理を出せばいいと思っているフランチャイズビジネスとは正反対ですね。
松田: 数字に走るフランチャイズは、競争が厳しくなるでしょうね。でも、その中にも本気の料理人さんはいます。だから、本部からの仕入れを減らして、八面六臂に切り替えた店もあります。4分の1だけほしい料理人さんがいるなら、そういうお店を4店舗集めておけばいいだけです。目先の数字だけを求める格安飲食店が生み出した「食事がまずい時代」に、おいしい料理を出す店を増やすことで対抗します。
わたしたちは、単純に鮮魚という商品の流通をやるだけでなく、それがきっちりとした情報とともに消費者へ伝わっていくことにも付加価値があると思っています。だから、店舗に対して魚料理が売れるためのお手伝いもします。旬の素材の情報提供にとどまらず、メニュー開発、ポスターやPOP作成も重要なサービスの一つです。また、今後は商品と情報だけでなく、海外で出店したいというニーズがあれば、料理人さんの派遣、紹介といった人材の流通もします。そういった商品と情報と人材の複合流通を通じて、ドバイやシンガポールにもやがて鮮魚を届けていきます。
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