実際、中国経済はどれくらいヤバいのか?藤田正美の時事日想

» 2014年04月02日 10時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 先週、世界情勢における中国経済のリスクはそれほど差し迫った問題ではないと書いたが、この2日ほどの間に、2人の専門家から話を聞く機会があった。テーマはずばり「中国経済はどれくらいヤバいのか」である。

 2人の意見は一致していない……どころか正反対だった。1人は「中国の金融はシャドーバンキングの問題を抱えているとはいえ、それがシステミックリスク(金融システム全体に波及するリスク)に発展する可能性はほとんどない」とし、もう1人は「中国の金融を支えているのは政府。“Too big to fail”(大きすぎるから潰せない)とはいえ、いつまでも政府が支えていれば矛盾は自ずから強まる。それが実体経済に影響すれば、中国のみならず日本は大打撃を受ける」という。

シャドーバンキング問題に、中国はどう対応したか

 シャドーバンキングの問題については、中国政府ももちろん認識している。打った手は2つ。1つは理財商品(高利回りの資産運用商品)がデフォルトに陥った場合でも、銀行は救済しないという方法だ。もともとオフバランス、つまり貸借対照表外のオペレーションなので、たとえ倒産しても銀行本体とは関係ないのだ。

 もう1つは預金金利の自由化方針を打ち出し、理財商品への資金の流れを断ち切ろうとしていることである。中国の預金金利3%に対して、理財商品の中でも内容がいいものは5%程度の金利をつけているため、個人や企業の預金が理財商品に流れる傾向にあった。しかし、銀行が3%以上の金利をつければ、安定性などの観点から預金者は銀行を選別するのではないか、という論理だ。

 こうした対策を取っているため、理財商品は確かに問題だが、それが銀行システムを揺るがす危機には発展しないというのが前者の話だ。しかし、相当ヤバいと答えてくれた専門家もいる。

photo 中国政府はシャドーバンキング問題に手を打っている(写真はイメージです)

地下バブル崩壊、内需減少――中国国内のリスクもさまざま

 それは、中国の金融リスクが実体経済に影響を与える場合だ。バブルは必ず弾けるもの。現在の中国は、2008年のリーマンショックを受けて、2年間で4兆元もの財政支出を行った。日本円に換算すれば60兆円を超える金額である(2014年4月1日現在)。日本の財政規模が95兆円程度、政策支出だけでは74兆円程度であることを考えれば、この60数兆円というのは途方もない金額であることが分かるだろう。

 この巨額の支出があったからこそ、リーマンショックでガタついた世界経済は、中国をはじめとする新興国によって救われた。しかし、その中国経済も今は足元が揺らいでいる。その1つはバブルが弾けて地価が下がっていることだ。

photo リーマンショック時、中国は約4兆元もの財政支出を行った(写真はイメージです)

 とりわけ地方政府が大々的なインフラ整備計画を打ち出し、それによって近代的な高層アパートに人々を移す計画だったものが、宙に浮いてしまったような状態になったケースも少なくない。こうなると資金がそこに滞留してしまい、結果的に地方政府が融資を受けるためのプラットホーム(融資平台)の資金繰りが悪くなる。

 中国の銀行が融資平台の危機を救うべく動いたとしても、理財商品などで融資されていた分はカバーできない。となれば、結果的に融資平台は行き詰まり、地方政府のインフラ整備なども頓挫する。それが中国経済の悪化につながるというのだ。

 もちろん、中国の生産年齢人口(15〜64歳)が減少傾向に入っているという背景もある。生産年齢人口が減少すれば、中国の国内需要も伸び悩む。年率7.5%という政府が目標する成長率の達成もおぼつかないかもしれない。

 そうなれば、実体経済に次から次へと波及する。ちょうど日本が2008年のリーマンショックで、銀行そのものへの影響はそれほどなかったが、貿易信用が滞ったことでトヨタをはじめとする日本の製造業が大打撃を受けたときと似ている。中国の実体経済がどこからかほころびて、その影響が次々に広がれば容易に止められないというわけだ。

 今後5年ぐらいのタームで見たとき、両者の見方のどちらが当たるか(もちろん中国経済が傾かないほうがよいのだが)。引き続き注目していくべきだろう。

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