ITの力で“理想”の教育が生まれる?――「MOOC×反転学習」が実現する新しい学びのカタチ講師1人で授業を作る時代は終わった

教室で静かに講義を受ける授業は10年後には消えるかもしれない。ITの進化は教育にも大きな変化をもたらそうとしている。誰でも自由に。時間や場所を選ばずに。世界でも最先端のトレンドを取り入れたオンライン講座が日本でも始まるのはご存知だろうか。

» 2014年03月24日 10時00分 公開
[PR/Business Media 誠]
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photo こうした講義だけの授業は10年後には消えるかもしれない

 10年後の教室。黒板の前に教師が立ち、学生が静かに講義を聞くというスタイルは時代遅れになっているかもしれない。もはや授業は、時間や場所を選ばずに、誰でも自由に受けられるものになりつつあるのだ。

 米国では、スタンフォード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)といった著名大学や教授の講義が無料で受けられる「MOOC(ムーク、Massive Open Online Course)」と呼ばれるオンライン学習サービスが注目を集めている。

 もう1つの動きが「反転学習」と呼ばれる新しい教育手法だ。学生は、事前にビデオ講義で予習しておき、教室では学生同士の議論や発表などの実習を中心となる。教師は、従来型の一方的な講義ではなく、議論を活性化する手助けを行う。日本でも佐賀県武雄市の小中学校が導入するなどの動きはあるが、まだ実例は少ない。

 MOOCや反転学習の導入が進む欧米諸国では、これらを組み合わせた授業が展開されている。どのような実例や成果があるのか、最新の動向を東京大学大学院で反転学習について研究を進める、大浦弘樹氏に聞いた。

「MOOC」と「反転学習」で何ができる?

――「MOOC」や「反転学習」といった言葉は、日本ではあまり耳慣れないものですが、欧米諸国では進んでいると聞きました。どのような授業が展開されているのでしょうか?

photo 反転学習では、生徒はあらかじめ動画で講義を受ける。これはMITが提供するオンライン講義だ

 先日、米国のサンノゼ州立大学で行われているMOOCと反転学習を採用した授業を見学しました。学生はあらかじめ、MITが提供するオンライン講義を見てから授業に臨むのですが、授業ではまず、教授がビデオの補足を行い、学生を名前順でグループに分けて課題を与えます。授業を理解しきれていない学生もいるわけですが、学生同士の会話で解決することも多いですね。理解が遅れている学生に教える人も、内容を整理して説明することで、考えがまとまるというメリットがあるのです。

 反転学習では「授業を通じて“何をできるようにすればいいか”ということを目的に、授業をデザインしていく必要がある」と授業を担当したガーディリー教授も言っていました。サンノゼ州立大学は、いわゆる“中堅”の大学ですが、授業に対する理解を深める、脱落者を減らす、といった目的が大きいようです。

photo サンノゼ州立大学での反転学習の様子。学生同士での議論で学習効果が高まる。もちろん、学生間で解決しない場合は、教授やアシスタントがフォローする

――実際にどのような効果があるのですか?

 一般的には落第率が下がるほか、学生の授業に対する評価が上がることが効果として挙げられていますね。始めは戸惑いもあると思いますが、慣れると対面授業の価値が分かってくるのだと思います。

 また、新たな可能性も見えてきました。サンノゼ州立大学とともに、スタンフォード大学にも行く機会がありましたが、ここでは医学部で反転学習を導入した授業を実験的に展開しています。学生からあらかじめ、ビデオ講義で知識を身につけ、対面授業では臨床例について議論するケーススタディや、実際の臨床現場を模した教室でシミュレーション学習などを行っているそうです。

photo スタンフォード大学の医学部でも反転学習を試験的に導入している。上の写真は同大学で行われているシミュレーション学習の様子

 スタンフォードの医学生といえば、もちろん優秀です。これは授業の理解度を高める目的だけではなく、知識とともに実践を重視するために反転学習が採用された例ですね。実践的なスキルに関しては、反転学習は有効と言えるでしょう。プレゼンテーション、対話や議論のスキルなどの育成も期待されています。

 反転学習は学術的な研究ではなく、教員の実践をベースにして広がりました。テクノロジーが進歩したことで、理想の教育を実現しやすくなったということです。その一方で、まだ評価の方法は確立していない。端的に言うと、テストの点数だけでは分かりにくいんですよ。検証の手法についてはこれからといったところです。

講師1人が授業を作る時代は終わる

photo 東京大学大学院情報学環 反転学習社会連携講座 特認助教の大浦弘樹氏

――こうした授業が普及することで、教育はどのように変わると思いますか?

 もう講師1人で授業を作る時代ではないのだと思います。役割を分担し、チームで授業を作っていくことが大切なのです。教授は専門知識のプロ、エンジニアはテクノロジーのプロ。そして、学習効果が高まる授業構成を考えるインストラクショナル・デザイナーが教えるプロとして、3方向から学習環境を整えなければいけません。

 講義とは異なる対面授業の可能性も広がっています。コーチングか、議論か、はたまたケーススタディが適するのか。今は試行錯誤を繰り返している段階ですが、10年、20年後にはこうしたスタイルが当たり前になると思っています。

――なるほど。MOOCや反転学習が普及するには、どのような障壁があるのでしょうか。

 反転学習では、ファシリテーションやコーチングが、講師にとっての重要なスキルになりますが、これは今まで経験しなかったものです。自分の教わったとおりに教える傾向がある講師にとって、既存の教授観を打破する、というのが大きな課題になると思います。

 環境の整備も重要です。講師は対面授業を作り込む準備が必要ですし、MOOCを配信するなら講義を撮影するスタジオを用意するなど、大学側のサポートも不可欠ですね。とはいえ、反転学習が支持されている理由の1つに“既存のシステムをそこまで変えずとも導入できる”点があります。教室や講師といったシステムを壊さずとも導入できる――現在行っている教育の拡張、という考えでよいのです。

MOOCと反転学習を組み合わせたオンライン講座が日本でもスタート

photo gaccoのWebページ

 MOOCや反転学習といった、最先端の教育トレンドを取り入れた学習サービスが日本でも2014年4月から始まるのを知っているだろうか。NTTドコモらが運営するオンライン講座「gacco」だ。有名大学の教授陣による、本格的な講義を無料で受講できる日本初のMOOCで、講座の内容を基にした対面授業を行うコースも用意している。

 反転学習やMOOCの研究者として、大浦氏も「gacco」の運営に関わっているが、彼はgaccoの特長について、自分の関心に沿って学べること、そして“つまみ食い”感覚で面白い授業に出会えることを挙げる。

 「今までのオンライン学習は“やらされ感”が強かったと思うんですよ。企業の研修みたいな感じですね(笑)。gaccoでは自分の関心に沿って、やりたいから学べるという環境があるんです。大学で履修を決めるときに、一般教養の科目とかだと授業の“お試し期間”があったじゃないですか。そんなつまみ食いみたいなスタイルで、授業を選べるところもいい」(大浦氏)

 そうやって選んだ講義はオンラインでの学習にとどまらず、同じ興味を持つ人同士が顔をつきあわせて議論し、考えを深め合う機会が用意される。それこそがgaccoの醍醐味といえるだろう。

 gaccoの講義のラインアップには、経営やインターネットといった実学的なものもある一方で、服飾や俳句、アニメといった“学ぶ”というイメージが沸きにくいものまである。無料なので、興味のままに受講してみて、つまらないと思えばやめてもいい。現在は開講予定も含めて15コースを準備しているが、今後はさらに増える予定だ。授業を修了すれば修了証をもらえる。今後、学んだスキルや知識を証明することで、就職や転職といった場面で有利に働く可能性もあるという。

photo gaccoの講義ラインアップ。アニメや俳句といったコンテンツの講義も、2014年夏以降に開講予定だ

 「働きながらだと、なかなか新しい学びや知識には出会いにくいのが現状です。他人から勧められても、自分にとって面白いかは分からない。gaccoは無料で受講できるので、ハードルは低いんじゃないかと思います。面白そう、何か学べるんじゃないか、というくらいの軽い気持ちでいいんです。そう言う意味では、いい時代になったんだな、と思います」(大浦氏)

 受動的ではなく、興味関心に沿って主体的に学ぶ。MOOCや反転学習が普及すれば、授業を受ける側の心理も一歩進んだものになるのだろう。そういった経験をした人が増えていけば、日本の教育も変わっていくかもしれない。「gacco」にはそんな新しい体験ができる場がたくさん設けられているのだ。そんな、最先端の教育を体感したい人はぜひgaccoを受講してもらいたい。

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提供:NTTナレッジ・スクウェア株式会社
アイティメディア営業企画/制作:Business Media 誠 編集部/掲載内容有効期限:2014年4月23日

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