「じぇじぇじぇ」の次は、ばばばっ旨めぇ?――高校生が考えた気仙沼「なまり節ラー油」新連載・東北発! 震災から生まれた21世紀の逸品(3/4 ページ)

» 2014年03月13日 08時00分 公開
[加藤小也香,Business Media 誠]

なまり節の価値を見直し、新しい食べ方を考えよう

 2012年11月、集まった第1期プログラム参加者の高校生に対して、小川氏が提示したテーマは、「地元でも食べる人の少なくなっているドライフードの価値を見直し、新しい食べ方を考えよう」というもの。漁獲量が多く、室根おろしと呼ばれる乾燥した風のおりる気仙沼は、100年以上も昔から、フカヒレをはじめとする乾物の文化が根付いていることに着眼したのだ。

 気仙沼のドライフードの一つが、カツオ節よりいぶし時間の短い保存食であるなまり節。地元の子たちなら当然知っているだろうと差し出すと、「何これ」「あ、あの、お父さんとかが、キュウリとかとマヨネーズをかけて食べてる、あれじゃない?」という思わしくない反応。しかし、食材としての魅力や背景にある地域の歴史や風土を知るにつれて、学生たちの目の色は変わっていった。「ラー油とか調味料にすると旨みが生かせるかも」「市販の食べるラー油のようにカリカリした食感もあったほうがいいんじゃないかな」「おかずのようにもなるといいね」……アイデアはどんどん出てきた。

 当初、偏差値の異なる3校から集まった学生はお互いに牽制し合うようなそぶりもあったが、活動を通じて、そんな垣根も取り払われた。人のアイデアを否定しないi.clubの方針が学生をのびのびとさせ、例えば「水産高校の子が水産物や食関連の知識は誰よりも持っていることが分かり、みんなから『シェフ』と呼ばれて頼りにされるようになる」(小川氏)など、学校の勉強などで測らない個々人の価値でのつながりが醸成された。

プログラムは2期に分けて行われた。1期目は商品の開発、2期目が販促プランの策定(写真)だ

 販促メッセージなどを考える第2期プログラムも同様だった。なまり節の生産者や、ラー油を市販できるものにしようと一所懸命になってくれている大人の姿が学生たちを大いに触発した。

子どもが変われば大人が変わる、大人が変われば地域が変わる

 なまり節を生産する日渡水産の昆野氏は、津波により工場が全壊。しかし馴染み客の「昆野さんのところのなまり節じゃなきゃダメなんだよ」という声に励まされ、3日後には再開を決意した。「お父さん、もう年齢も年齢だし、これを機会に引退したら?」。家族からは重労働から離れる良い機会と勧められたが、「俺は別にカネが稼ぎたいわけじゃないんだ。カツオにこれまでの人生の恩返しをしたいだけなんだ」と跳ね返した。

 「だって、カツオが俺たちに仕事をさせてくれて、カツオが俺という人間がここにいることを証明させてくれたんだから。俺はカツオが好きなんだよ」

 カネダイ水産も、津波で本社事業所や工場を失った。ただ、マグロ漁船やカニ漁船は洋上にあって無事。中国にある主力生産工場も順調に稼働している。とはいえ同社の本業は、水産加工といってもカニやエビの冷凍加工。ラー油のような常温流通品はほとんど製造したことがなかった。しかし「だから挑戦する価値がある。単に高校生が頑張っているから応援しようとかそういうことではなく、この経験を通じて自分たちの事業領域が拡げられるかもしれないと思ったんだ」(佐藤氏)

日渡水産の昆野氏(左)、カネダイ水産の三浦氏(右の写真の左側)と佐藤氏(同・右側)

 一定以上の量を生産するレシピの開発は、思いの外大変だった。長期保存のために十分な加熱処理をすれば風味が落ち、せっかくの学生の工夫であるナッツの食感もなくなる。煮詰まって味が濃くなりすぎるのもよろしくない。「正直、試食し過ぎて、味の微妙な違いが分からなくなるところまで行った」と話す三浦氏。言いながらも楽しげな、その表情も印象に残った。

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