タイの反政府デモ騒動、両者は何を争っているのかINSIGHT NOW!(2/3 ページ)

» 2014年03月06日 07時00分 公開
[日沖博道,INSIGHT NOW!]
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反政府デモが起きているのはなぜ?

photo 赤シャツ派によるデモ

 しかし、これが政治的な妥協を模索するメッセージかというと、彼らはそんな淡泊ではない。このデモのきっかけとなった出来事は2つある。与党・タイ貢献党が、訴追された国外亡命中のタクシン元首相の帰国を狙って恩赦法を国会に提案したこと(日本ではこちらが主に報道されている)。

 もう1つは、2010年のデモ弾圧事件で国軍に発砲を許可したことで、アピシット前首相と治安担当のステープ前副首相が2013年10月に殺人罪などで起訴されたことだ。前者の恩赦法は政権がすでに取り下げているが、後者に関しても政治的妥協が成立しない限り、反政府デモ隊がほこを収めることはなさそうだ。

 でも仮にこうした妥協が達成されても、両派の対立の根は深く、和解に至る道は長いものになると思われる。それはなぜなのか。「タクシン派」対「反タクシン派」とだけ言われると、まるで日本の「小沢」対「反小沢」のように、個人的な好き嫌いがベースにあるように勘違いしかねないが、地域の対立と社会層の対立が組み合わさったものだ。まずは両派の構造を整理してみよう。

赤シャツ派:いわゆるタクシン派。タクシン支持者が赤をシンボルカラーとしてそろいの赤シャツを着ることから名づけられた。現在政権与党であるタイ貢献党が中心機関で、名目上はタクシン氏の妹であるインラック首相がトップだが、もちろん国外亡命中のタクシン氏が実質的なトップ

黄シャツ派:いわゆる反タクシン派。シンボルカラーは黄色で、野党である民主党が中心。アピシット党首(前首相)がナンバー1で、デモ隊の指導者、ステープ元副首相がナンバー2となる。主な支持層は首都・バンコクと周辺に住む富裕層と中間層、そしてタイ南部に済む貧しい人々

 携帯電話事業で莫大な富を築いたタクシン氏が政権を握り、2001〜2006年にかけて自己の出身地であるタイ北部を開発する政策を色々と執った。そのおかげでタイ北部では、彼は今も教祖のような絶対的人気を誇っている。いわば「日本列島改造論」のタイ版を実行したのだ。

 この一代で成り上がった“タイの田中角栄”に猛烈に反発したのが、既得権益者である都市住民というわけだ。とりわけ中華系を中心とする商業的な成功者などの既存エリート層であり、その代表がアピシット氏である。タクシン氏を追放した後、同国経済の一層の発展に寄与しながら、先の総選挙ではあっさりと足元をすくわれている。

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