科学の大原則がビジネスを変える世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる(2/2 ページ)

» 2014年03月05日 08時00分 公開
[丸幸弘,Business Media 誠]
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イノベーションを創出した、アップル社のiPhone

iPhone 5s

 1つの変革が次第に広まり、いつの間にか誰も気に留めなくなるほどあたりまえのように受け入れられたとき、初めてイノベーションが創出されたと言える。アップル社のiPhoneは、抜群の機能性を備えた技術自体ではなく、iPodユーザーを起点に世界中に利用者を広げたからこそ、イノベーションツールになり得たのです。

 リバネスの主戦場である科学の世界では、常に世界を変えるような発明(インベンション)が生まれ続けています。科学者たちはみな、自らの中に壮大な疑問や問題意識を抱えて、それを解決するための研究を日夜続けているのです。

 でも、努力が結実して世紀の発明にたどり着けたとしても、それを世界が認識し、広く実用化されない限りは、イノベーションにはなりえません。

 2014年1月、「STAP細胞」を作成し大きく注目された理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子さんのように、大々的に注目されるケースはほんの一握りで、日の目を見ないまま埋もれていくインベンションが、悲しくなるくらいに多いのです。

 同センターの共同研究者は、メディアの取材にこう答えていました。「小保方さんのように世紀の大発見をするには誰もがあり得ないと思うことへチャレンジすることが重要だ。でもそれは、若い研究者が長期間、成果を出せなくなる可能性があり、その後の研究者人生を考えればとても危険なことだ」と。これが研究者の現実なのです。

 私が、科学者から経営者に転向した理由もそこにあります。ただの科学者であり続けていては、世界を変える前に自分の生命が消えてしまう。だから、科学者や研究者の熱が冷めないうちに、企業や教育機関や子どもたちと結びつけることで、世界を変える手助けをしたい。たった1人の発明や発見を、世界を変えるイノベーションに発展させるために、私は科学とビジネスを融合した、リバネスという会社を立ち上げました。


本連載では、社員1人ひとりの「個」の力を最大限引き出しながら、世界を変えるビジネスを生み出すための方法と組織のつくり方を、リバネス独自のしくみ「QPMIサイクル」を中心に説明していきます。新しいことを始めようとするすべての組織と個人に、必ず役立つと確信しています。

 仕事柄、中小企業や、零細企業と言われる小さな町工場の経営者の人たちとお会いする機会が多い私は、よくこんな言葉を投げかけられます。

 「こんな小さな会社に、リバネスのような優秀な人材なんか入ってきませんよ」
 「うちのような零細企業が、世界を変えるビジネスなんてできるわけありませんよ」

 僕はたいてい彼らを、研究に熱中する学生に会わせて、事業内容をプレゼンしてもらいます。すると血気盛んな学生たちは、自分の研究がどうやって活かせるのかを懸命に説明したり、事業内容についてつぎつぎに鋭い質問を浴びせかけます。すると経営者の人たちは、「今の学生さんたちも、まんざらじゃないね」とこぼすことがほとんどです。こうして、リバネスの熱を介して、学生と経営者の化学反応が起こっていく。

 科学の大原則と同じように、リーダーシップをとる人にパッションを感じられない企業には、人は集まってきません。学生を引き寄せる熱がなければ、必ず企業は衰退していきます。リバネスは設立12年の未熟なベンチャー企業ですが、優秀な人材が大企業の内定を辞退してまで集まってきてくれます。その理由はただ1つ、僕自身とリバネスという組織全体に「熱」を持たせ続けることを、何より大切にしているからです。

 事情は大企業でも同じことです。2014年2月現在、私は36歳ですが、一般的な組織で言えば、現場の最前線でバリバリ働く世代です。何とかして組織を変えようと、会社から新規事業の担当を任される人が多い世代でもあるでしょう。

 そういう人たちにも、是非読んでもらいたい。大きな組織を変えるきっかけは、1人のパッションから生まれるからです。

 そして言われるまでもなく、イノベーションを起こしてやろうと事業を立ち上げた若い経営者やプロジェクトリーダー、自分の研究で世界を変える壮大な夢を持った学生にも、その野望を実現するために、必ず参考になる部分があるでしょう。読者の中から1人でも、壮大なビジョンと面白いアイデアを持って「いっしょにビジネスをしたい」と声をかけてくれる人が現われたなら、これほど嬉しいことはありません。

 世界を変えるビジネスは、たった1人、あなたの「熱」から生まれるかもしれないのです。

(次回は、「アイディアをビジネスに変えるしくみ」について)

著者プロフィール:

丸幸弘(まる・ゆきひろ)

株式会社リバネス代表取締役CEO。1978年神奈川県横浜市生まれ。

東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。

リバネスを理工系大学院生のみで2002年に設立。日本初の民間企業による先端科学実験教室を開始する。中高生に最先端科学を伝える取組みとしての「出前実験授業」を中心に200以上のプロジェクトを同時進行させる。2011年、店産店消の植物工場で「グッドデザイン賞2011ビジネスソリューション部門」を受賞。

2012年12月に東証マザーズに上場した株式会社ユーグレナの技術顧問や、小学生が創業したケミストリー・クエスト株式会社、孤独を解消するロボットを作る株式会社オリィ研究所、日本初の遺伝子診断ビジネスを行なう株式会社ジーンクエストなど、15社以上のベンチャーの立ち上げに携わるイノベーター。


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