日中間の戦争が“絶対にない”とは言い切れない理由藤田正美の時事日想(2/2 ページ)

» 2014年02月26日 07時30分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]
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日本はすぐにでも「核武装」できる国とみられている

 もし尖閣諸島を巡って日中間で武力衝突が起きた場合、世界に与える影響は計り知れない。まず、中国における経済活動は多大な影響を受ける。日本企業が撤退した場合、もちろん日本にとっても損害は大きいが、中国はたちまち資金不足に陥る可能性がある。

 しかし、過去の実績を見れば「絶対に尖閣奪取作戦がない」とは言い切れない。そのときには、日本を支持する国際世論が大きな意味を持つ。その意味では、安倍首相がアフリカを訪問したのは“正解”だったと思うが、日本が中国を挑発したように見られる発言は得策ではない。安倍首相はしきりに「私のドアは開いている」という言い方をしているが、靖国参拝や第一次世界大戦の例えは、いかにも中国や韓国の目の前でドアを閉めるような振る舞いに見える。

 中国や韓国がいつまでも歴史認識を問題視するのは、それが日本の立場を弱めることをよく知っているからだ。日本の世論は分裂しているし、中韓以外にも第二次世界大戦における日本軍の行為を問題にする国がある。

 それなのに、日本では相変わらず「被虐史観」(ここでは、日本の侵略がアジア諸国に犠牲を負わせたという認識という意味)をひっくり返したような、言わば修正主義的な歴史観が蒸し返され、徐々にそれが強まっているようにも見える。そちらに傾斜すればするほど、米国をはじめとする欧州の先進国は日本を“危ない国”――周辺国を挑発しかねない国と見るようになるだろう。

 しかも厄介なことに、日本はその気になればすぐにでも「核武装」できる国と見なされている。世界唯一の被ばく国として、日本人には理解しづらいかもしれないが、中国やロシアの核に脅かされているところに北朝鮮の核が加わり、米国が頼りにならないと日本が感じれば、自衛隊が核武装するのは自然な流れだという見方もあるのだ。

 日本が核武装する方向に動けば、かつて米国とソ連が繰り広げた軍拡競争を再現することになりかねない。冷戦時代の教訓として、軍拡競争には勝者はいないというものがある。軍事費の重みでソ連は崩壊したし、一方の米国も、一時は圧倒的な強さを誇ったものの、結局は軍事費の削減に踏み切らざるを得なかった。そして今や、米軍は世界で二正面作戦を展開できないほどに弱体化している。

 日中間で戦争が起きれば(それが限定的なものであれ)、双方にとって取り返しのつかない失敗だと思うが、そう認識しているだけでは偶発的な“事故”は防げない。首相周辺はそこまで熟慮しないと、将来に禍根を残すことになる。まして経済の専門家として政権中枢にいる人間が、安全保障に関わることをメディアに話すなどというのは、不見識極まりないように思う。

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