ぜんぶ雪のせい……ではなかった? 東横線追突事故杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)

» 2014年02月21日 08時50分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

ATCは作動していた

 ATCもATSも、線路上の列車の有無はレールに微弱な電気信号を流して検知している。列車の車輪によって離れた2本のレールに電気信号が開通する仕組みを使う。懸念としては、車輪の代わりに線路間の雪が凍って電気が通じてしまう可能性がある。これは軌道短絡といって、線路の水没などでも起きる可能性はある。ATSやATCの誤作動とすればこの状態だろう。ただし、この場合は線路上の列車に対して停止指示が出るから、ブレーキは作動するはずだ。

 万が一、ATC自体がシステムダウンしていた、あるいはプログラムミスなどの不具合で非常ブレーキを作動させなかったという可能性もゼロではない。しかし東急電鉄の発表では「ATCは正常に作動していたと確認済み」だという。乗客からは「非常ブレーキが作動しましたというアナウンスがあった」との証言もあり、おそらくこれは「急停車します。ご注意ください。Attention Please……」という自動放送だろう。これは運転士でもATCでも、とにかく非常ブレーキが作動すれば自動的に流れる。つまり、運転士とATCのどちらかが非常ブレーキを発動したところまでは確認できている。

 原因の切り分けとしては、ブレーキ自体の利きが甘かった、となる。

耐雪ブレーキとはなにか

 過去にも雪の少ない都会の大雪でブレーキが効かず、追突した事例がある。1986年3月23日に西武鉄道新宿線で上り急行電車が田無駅に停車中の各駅停車に追突した。200名以上の負傷者を出している。当時も大雪で、原因はブレーキパッドと車輪の間に雪が詰まって凍ったため。ブレーキパッドが摩擦力を得られなかった。西武鉄道は山間部を走る秩父線・池袋線の電車には「耐雪ブレーキ」を装備していた。しかし新宿線には「耐雪ブレーキ」が装備されていなかった。西武鉄道はこの事故をきっかけに全車両に「耐雪ブレーキ」を装備した。

事故車と同型の台車。丸印がブレーキパッド

 2002年1月3日には、名古屋鉄道羽島線の終点の新羽島駅で電車が停まらず、列車が車止めを突破した。高架駅だったため、先頭車両の一部は空中に突き出す格好となった。これもかなりの怖さだ。この電車は「耐雪ブレーキ」を装備していた。しかし降雪にもかかわらず「耐雪ブレーキ」のスイッチを入れていなかった。

 東横線の事故でも、いくつかの報道では「この電車には耐雪ブレーキが付いていた」と報じられている。私も耐雪ブレーキが疑わしいと思う。ただし、「耐雪ブレーキが付いている」という表現は誤解を招く。「耐雪ブレーキ」は「雪のために使う特別なブレーキパッド」ではない。通常のブレーキに耐雪用機能を付けているだけだ。具体的には「ブレーキバッドに雪がこびり付かないように、あらかじめ弱い力でブレーキを車輪に接触させておく」という機能である。つまり、かなり弱い力でブレーキをかけた状態で列車を走らせる。これが耐雪ブレーキ(機能)だ。

 「耐雪ブレーキ」という言葉は使われていないが、NHKの報道が詳しく説明している(参照リンク)。鉄道技術に詳しい工学院大学の曽根悟特任教授が「雪が入り込まないよう車輪にブレーキパッドを押しつける対策を取っていたにもかかわらず事故が起きていたとすれば、想定を越えるものだ」と語っている。

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