大切なのは、現場で働くスタッフのバックグラウンドを把握することだという。各人のストーリーを理解する。それがなにより大切だというわけだ。
「テッセイの門を叩く人たちの大半は、多くの苦労を経験してきた方です。逆境に耐えながら複数の職場を転々とした末に、『川下』であるテッセイにたどり着いた。そして意識すべきは、ここに来るまでに仕事を評価されたり褒められたことのない人がとても多いということ。でも、仕事にはやる気が必要ですし、やる気を出していただくためには『誇り』と『生きがい』を持ってもらうことがなにより大切なんです」
だから、とにかくスタッフひとりひとりの個性を認める。矢部さんは、その点を貫いてきた。結果として現場には覇気が生まれ、会社の評判はどんどんよくなっていった。
「ここまでくるのに8年かかりましたが、裏を返せば、8年あればここまでの改善が可能なんです。いまではJR東日本本社から、『テッセイはもう誰にも止められない』と言われていますよ(笑)」
そうはいっても8年は長い。にもかかわらず矢部さんが現実から目を背けることなくがんばってこられたのは、少年時代の記憶のおかげでもあるという。
(つづく)
株式会社JR東日本テクノハートTESSEI おもてなし創造部長
1966年、日本国有鉄道入社。以後電車や乗客の安全対策の専門家として40年以上勤務し、安全対策部課長代理、運輸車両部輸送課長、立川駅長、運輸部長、運輸車両部指令部長などを歴任。2005年、鉄道整備株式会社(2012年に株式会社JR東日本テクノハートTESSEIに社名変更)取締役経営企画部長に就任。
従業員の定着率も低く、事故やクレームも多かった新幹線清掃の会社に「トータルサービス」の考えを定着させ、日本国内のみならず海外からも取材が殺到するおもてなし集団へと変革した。2011年、専務取締役に就任。2013年に専務取締役を退任、おもてなし創造部長(嘱託)となり、現在に至る。
TESSEIを取り上げた『新幹線お掃除の天使たち』は10万部、矢部氏の著書『奇跡の職場』は3万部を売り上げるベストセラーになり、注目を集めている。
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