日本だけではなく、世界中で景気が伸び悩んでいる!?藤田正美の時事日想

» 2014年02月19日 07時30分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 2013年は上げ潮に乗った日本経済だったが、2014年は年明けから調子がおかしい。1月の株価は初日(大発会)からいきなり下がり、月間でも安くなった。貿易赤字は10兆円を超え、経常収支の黒字も3.3兆円(前年比31.5%減)にとどまっている。さらに追い打ちをかけるように、2月17日に内閣府が発表した2013年第4四半期(10〜12月)のGDP(国内総生産成長率)が年率換算1%にとどまり、予想を大きく下回ったのだ。

 2014年4月に消費税が5%から8%に引き上げられることもあり、すでに駆け込み需要は増えている。特に自動車や住宅といった値の張る商品ではその傾向が顕著だ。先日、北海道では納車に半年近くかかる状況になっており、消費税が8%になってしまう車種もあると聞いた。住宅でも中古の流通が増えているという。こうした駆け込み需要があるからこそ、民間エコノミストは当初年率3%台の数字を見込んでいたし、やや慎重になっても2%台には乗るだろうと思っていた。しかし結果的には、それよりはるかに低い数字に落ち着いている。

photo 2月17日、内閣府は2013年のGDP(速報値)を発表した(出典:内閣府ホームページ)

景気が回復しないのは世界共通の問題?

photo 景気が回復しないのは日本だけではない

 問題はここから先がどうなるのかだ。景気が思ったほど回復しないのは、実は日本だけの話ではない。米国も失業率だけは下がって、FRB(連邦準備理事会)が金融緩和の縮小の目処にしている6.5%に近づいた。しかし、これが本当に労働市場の好転を意味しているかどうかは議論がある。職を求めることを諦めた人(特に若年層において)がいるのではないかという議論が蒸し返されているのだ。

 英フィナンシャルタイムズ紙にローレンス・サマーズ元財務長官が、「アメリカはダウトン・アビー(イギリスのドラマ)経済になってしまうかもしれない」というコラムを書いた。要するに先進国で最も格差が大きく、それを許容してきた米国ですら“格差”が大きな問題になっているのだ。「30年前であれば、『全体の成長率が中間層の所得を押し上げ、貧困を減らすのにつながる』という主張がそれらしく聞こえたが、もはやそうではない」とサマーズは主張する。

 日本に置き換えれば、経済は回復しつつあるように見えるが、労働者の所得はなかなか伸びず、持てる者と持たざる者の格差が広がっているということだ。米国のように機会さえ平等であれば、結果が平等でなくても、それを受け入れるという考え方が強い社会ですら、格差が改めて大きな問題になった背景には、経済の構造変化があるのかもしれない。

 欧州も若年失業率が高い。スペインなどでは若者の2人に1人が失業していると言われている。かつて、ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のポール・クルーグマン教授が「不況が長引いて失業している期間が長くなると、スキルを身につけることができずに、結果的に労働市場からはじき出される人が増える」と警告していた。

 日本の失業率は欧米ほど高くないし、新卒の就職内定率も改善している。しかし、同時に非正規雇用も増えているという現象には注意すべきだ。非正規雇用は安定性だけの問題ではない。雇用者が非正規雇用の従業員に、きちんスキルを与えようとしない(スキルを与えるインセンティブがない)ところが本当の問題だと思う。その結果、賃金は上がらずスキルも身につかない。

 それでは、例えば結婚して子どもを産んで、家を買って――というような、今まで“中流”とされてきたライフスタイルを実現することが難しい。そういう人が徐々に増えていることが日本の潜在成長力を阻害していると言えるかもしれない。

 スイスで開かれた2014年のダボス会議(世界経済 フォーラム年次会議)では、全体を通して「慎重な楽観主義」という“結論”になった。日本はともかく、中国をはじめとする新興国や欧州を見れば、慎重という言葉の重みがますます増してくる。日本に関する予想も慎重に見直さなければいけない時期なのだろう。

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