なぜ四日市市は「電車」にこだわったのか――私たちが忘れてはいけないこと杉山淳一の時事日想(4/4 ページ)

» 2014年01月31日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]
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環境先進都市と公共交通

 四日市市の環境部環境保全課が制作したパンフレット「四日市のかんきょう - 公害対策と環境保全 - 平成24年度版」(参照リンク、PDF)によると、市民の環境被害への関心は工場ではなく、騒音や悪臭など生活面のほうが多いという。しかし、もうひとつのパンフレット「特集 環境先進都市 未来に豊かな環境を引き継ぐために 〜環境先進都市を目指して〜」(参照リンク、PDF)では、末尾に「四日市公害裁判判決から40年、いまだ、全国的には公害のまちからのイメージ転換ができていません」とある。その上で、四日市市は「環境先進都市」というキーワードを掲げている。

 内部線・八王子線問題について、四日市市は「大気汚染」というキーワードを出さなかった。しかし私は「大気汚染と闘った都市」を主張してもよかったと思う。当事者にとって忘れたい過去かもしれないが、広島市長や長崎市長が今も核廃絶にコメントするように、四日市市も環境汚染に対して主張し続け、世界に警鐘を鳴らすべきだ。過ちを克服した過去を誇りに変えよう。四日市市にはその資格がある。

 四日市市では2008年にLRT(次世代型路面電車システム)の構想が検討されていた。JR四日市駅から近鉄四日市駅を経て、市立病院に至る2.2キロメートルのルートだ。バッテリー駆動電車を採用する案だったが、当時はまだバッテリー駆動電車実用化のめどは立っていなかった。早急な整備というより、長期的な目標と報じられていた。この構想が実現し、マイカーやバスの交通量をLRTに移せば、これも大気汚染減少の一助になるだろう。最近の動きはないようだが、LRT構想を起動する時期かもしれない。

四日市市LRT構想(筆者予想ルート Google Mapsにて作成)

 2015年度に制定される「四日市市公共交通推進室」は、事業採算や便益と同等に環境重視を貫いてほしい。「環境先進都市にふさわしい公共交通とはなにか」というテーマに取り組んでもらいたい。「大気汚染に勝利した都市」から、世界に誇れる公共交通の仕組みが生まれると期待したい。

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