米国の「メイド」問題で明らかになる外交官の不都合な真実伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)

» 2014年01月16日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

メイドを低賃金でこき使うのはカースト上位の常識!?

 だが問題はここからだった。彼女は公衆の面前で手錠をかけられ、そのまま連行された。そして取り調べに際し、丸裸にされて肛門など局部まで詳しく調べる身体検査をさせられたという。しかも、25万ドルの保釈金を支払い保釈されるまで、酷い扱いを受けた。彼女は「何度も手錠をかけられ、裸にされ、体腔捜査までされ、ほかの犯罪者や麻薬中毒者と一緒の房に入れられた。何度も泣き崩れた」と語っている。

 インドには、現在は違法であるカースト制度がいまだに根強く残っている。地位の高い者は露骨にそのように振る舞い、地位の低い者を鼻であしらうこともある。例を出すと、飛行機で海外に行けるような高位なインド人の多くは、キャビンアテンダントを家来のように扱い、レストランなどでも露骨に従業員を下に見る人もいると聞く。

 とある国のインド大使館に勤めていた人の話を聞いたことがあるが、「ゴミが床に落ちてもインド人外交官は決して拾わない。ゴミを拾うのは下の地位のものがやることだからというのが常識になっている」という。ちなみに今回問題になったメイドは、「こんなに酷い状態だとは思わなかった。寝る時間も食べる時間もない、自分自身の時間がまったくないほど、こき使われた」と語っている。まさに虐待に近い扱いだ。

 この外交官の自意識は相当高かったはずだ。そんな人物が人前で手錠をかけられ、裸にされて身体検査を受けさせられるというのは、屈辱以外のなにものでもない。

インド政府は即座に米国に対して報復行為に出た

 この一件が報じられると、インドではデモが発生。そしてインド政府は、米国に対する報復措置を始める。まずインド政府高官らは、インドに訪問していた米議会の使節団との面談を拒否。さらに9.11米同時多発テロ以降に設置されていたニューデリーにある米大使館の警備用バリケードをブルドーザーで撤去した。米大使館内では特権でプールやレストラン、バーなどが無税で営業されており、外交官以外の会員(会員費は年1300ドル)も利用できるが、インド当局はそうした活動を2014年1月16日までに中止するよう命じた。

 そして両国の激しい交渉の末、インド政府は副総領事に対する外交免責を放棄しないと宣言、裁判権免除の取り決めから、そのままでは米国で裁判が行えないことになった。副総領事は1月10日にインドに帰国したが、同じタイミングで、今度はインド政府が在インド大使館の米国人外交官に対して、今回のメイドの家族を「避難させた」として国外退去を命じる事態となった。

 米国とインドは歴史的に見ても、良好な関係を保ってきたわけではない。冷戦時代はインドがソ連と近かったために、米国とは距離を置いていた。インドの核実験で米国とインドの距離はさらに広がったが、最近では米印原子力協定などで関係は密なものとなっていた。

 今後、両国関係がどんな展開を見せるのか目が離せない。米国にとって、北には中国、東には「テロとの戦い」の前線国であるパキスタンがあるインドとの関係は重要だ。しかも両国ともインドとライバル関係にある。米国がインドへの影響力を高めることができれば、中国やパキスタンとの関係で、結果的に実になることは少なくない。それだけに今回の騒動は残念な展開だろう。

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