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» 2014年01月14日 08時00分 UPDATE

古田雄介の死とインターネット:情報の完全抹消は可能か?――ネットに残す/残るということ

他の媒体に比べて、ネットはコンテンツを公開する時間軸が圧倒的に自由だ。それゆえに独特の強みがあるが、完全抹消の難易度は高い。

[古田雄介,Business Media 誠]

古田雄介のプロフィール:

1977年生まれ。建設業界と葬祭業界を経て2002年にライターへ転職し、テクニカル系の記事執筆と死の周辺の実情調査を進める。ネット上の死の現状をまとめたルポ『死んでからも残り続ける「生の痕跡」』(新潮45eBooklet)を各種電子書籍サイトで販売中。ブログは「古田雄介のブログ」。


 インターネットには、誰かが亡くなったことをきっかけにして生まれるサイトも少なくない。

 2004年10月5日、広島県廿日市で当時17歳の高校生・北口聡美さんが自宅で若い男に刃物で刺されて亡くなった。男は聡美さんの祖母にも重傷を負わせて逃走。似顔絵や身体的特徴、逃亡に使った車や当時履いていた靴など、いくつもの情報が集まったが、2014年1月現在も犯人逮捕には至っていない。

 父親の北口氏が犯人の情報提供を求めるブログ「SA・TO・MI 〜娘への想い〜(参照リンク)」を始めたのは、事件から1年以上の月日が流れた2005年の年末だった。「情報を持っている人の中には直接警察へは言いにくい人もおられると思い、(まだ世に出ていない)隠された情報が出てくるのではと考えて始めました」という。

SA・TO・MI 娘を殺害して逃亡した犯人の情報提供を9年以上呼びかけている「SA・TO・MI 〜娘への想い〜」

 新たな情報を得るという期待以上に、事件解決が難航する不安のほうが大きかった。「個人のブログですから、1人でも多くの人に見ていただくにはどうすれば良いのか? また見ていただくには、どんな内容を書けば良いのか? 今でも悩むときがあります」と手探りで更新を続け、ついに9年を越えた。

 取り組みは奏功し、現在も犯人に関する情報は年に10〜15件程度のペースで届く。アクセス数は新聞やテレビで事件が報道されるたびに跳ね上がるが、平均でみても週に1000PV程度で安定しているという。北口氏は、ブログを始めたことについて「良かったと思います」と率直に語る。

 しかし、まだ解決には至っていない。「事件解決の糸口となる情報がほしいです。もしかしたら犯人は当時未成年者かもしれません。そうだとすれば周りにいる人も当時未成年者だと思いますが、当時17〜18歳だとしても現在は26〜27歳になります。大人になって話せる勇気を持たれたなら、情報を提供していただきたいものです。直接警察へ言いにくいなら、匿名でも結構ですから私のほうへ教えてほしいです」

 解決した暁にはどうしたいか。「事件が解決すれば、忘れていただきたいです。いつまでも被害者家族というような眼で見られるのは辛いことですから」という正直な思いを口にする。

完ぺきな抹消を求めるなら、しらみつぶしの対応が必要

 インターネットは、他のメディアに比べて誰でも情報発信できる自由さとともに、コンテンツを半永久的に表示できるという時間軸の幅の広さも際立っている。放送時間や流通時期の縛りがあるテレビや新聞、雑誌の受け皿にすれば、さまざまな情報が集約される最終的な拠点としても利用可能だ。犯人の情報提供を求める北口氏のサイトはその好例といえるだろう。

 しかし、拠点としての役目を終えたとき、望むように情報を抹消することは可能だろうか。

 自身のサイトは自らの意思で削除できるとしても、検索エンジンやアーカイブサービスに残ったキャッシュやコピーは別の管理者の下に残る。サイトへのリンクは意味をなさなくなるので放っておいても、テキストや画像データがコピペされていれば不特定に広がっていくことになる。

 すべて抹消するなら、そうした各種コピーを検索エンジンなどからしらみつぶしに見つけて、それぞれの運営者に削除を依頼しなければならない。そして、削除に対応してもらえるか否かは運営者の判断に委ねられる。

ネット風評イレーサー シエンプレの「ネット風評イレーサー」

 完全に抹消するなら近道はないが、業務を外部に委ねる手はある。2008年からネット風評被害対策コンサルティング事業「ネット風評イレーサー(参照リンク)」を展開しているシエンプレは、「すべてのケースが当てはまるとは言えません」とことわりつつ、「過去の傾向から言えば、そういったケースなら事情をしっかり説明すれば対応してくれることが多いです」と語る。実際、同社でも自殺した人の悪口が書かれたサイトに削除依頼を出した経験があるという。

 なお、削除申請スレッドに削除依頼を書き込んだことをきっかけに二次被害が発生するなど、行為が逆効果を呼ぶこともある。「運営者がどういった人なのかを綿密に調査を行って、二次被害が起こるリスクを想定した上で対応する必要があります。二次被害が起こりそうなら、一旦は静観するという対応も必要だと考えております」。そうしたさまざまなケースを経験したうえで、同社は「結局は人なんです。成否はサイトの管理者や運営者がどういう対応を行うかによりますから」と総括する。

 インターネットを利用しているのも結局は人だ。しかし、すでに亡くなっている管理人や放置されて連絡が取れないサイトも多く、ネット全体として増加傾向にある。レンタルサービスなら提供元に相談すればいいが、独自ドメインならそこでお手上げということもあり得る。人間対人間といっても、アクティブでいる時間軸がずれていて、対応する相手と出会えない。そんなケースも想定する必要がありそうだ。

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