ティー・リーフ・ネーションの記事は果敢で頼もしい女神的リーダーシップ(5/5 ページ)

» 2014年01月07日 10時00分 公開
[ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ,Business Media 誠]
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 これからの10年で中国経済はいっそう発展するだろうが、市場全体を取り込もうとする企業にとっては、顧客の多様化にどう対処するかが課題となる。地域によって言葉が違い、インフラの整備度合いや風習も実にまちまちで、この状況に臨機応変に対応して津々浦々の顧客の心を捉えないかぎり、事業の成功はおぼつかない。セールス担当者は、午前中は用心深いイスラム教徒、午後は香港の生き馬の目を抜く世界で生きるやり手たち、夕方以降はお堅い共産党幹部に商談を持ち込むといった1日を送ることもありうる。話し合いや交渉はそれぞれの不文律に沿って行うことになる。

 では、中国社会全体はどう変容していくのだろうか。リーは、中国の人々は貧困や格差などこの国が抱える問題への理解を深め、「思っていたほど調和が取れた国ではない」と悟るだろう、と予想する。事実、教育水準、雇用機会、医療やインフラの整備に著しい開きがあるのが中国社会の見過ごせない現実である。これらの社会的課題に対処するには、各人が裕福になることを必死に目指すだけでなく、もっと大きな目的のために献身しなくてはいけないとリーは言い添えた。もちろん、隣人、地域社会、国のために主体性を発揮することも欠かせないだろう。問題はこれをどう実践するかである。

 リーは「残念ながら、いまのところ中国人の頭にはおカネのことしかありません」とも語る。共産主義は人々の心に依存心を芽生えさせたが、最近は共産主義の影響がかげってむしろ資本主義の影響が強まり、公共への奉仕や慈善への関心は薄いという。国民の目を社会に向けさせて参加意識を高めるには、価値観の開きを埋めなくてはならず、政府もこれを悟っているという。

 「政府はテレビ局に『善き市民としての意識を育む番組を望んでいる』と告げました。わたしたちは、滑稽な歌や踊りを毎晩見せられるのには飽き飽き。そういった番組は1週間に2つだけに減る見通しです。無私や寛容の心を培うための、啓発番組の増加が望まれます」

 中国人には政府のメッセージに注意を払う習慣がある。「そうした習慣を政府がうまく活用するかもしれません」。しかし長期的には、善き市民としての意識が高まるのは、公的な福祉や助成に代わる慈善活動を国内の富裕層が盛り上げてからだろう。これはすでに、新興エリートの主導のもとで始まっているという。「彼らは水準の高い教育を受けていますし、成功や活躍をとおして若者から尊敬を集めています。きっと独自の方法で理念を広めていくでしょう」

(つづく)

著者プロフィール:

John Gerzema(ジョン・ガーズマ)

消費者行動が経済成長、イノベーション、企業戦略に与える影響を分析する社会理論家。グローバル企業のコンサルタントとして、消費者の価値観やニーズの変化を膨大なデータ分析によって追跡調査している。前著『スペンド・シフト』は、ビジネス雑誌、ファストカンパニーの「ベストビジネス書2010」に選出され、北米で出版されたビジネス書を対象としたAxiomビジネスブックアワードで2012年の金賞を受賞。

コロンビア大学、MITスローンスクールなどで講師を務め、TEDでのスピーチは25万人に視聴されている。BAVコンサルティングのエグゼクティブ・チェアマン、世界50カ国、5万ブランドを対象とした世界最大の消費者調査、BrandAssetValuator(BAV)の責任者を務める。


Michael D'Antonio(マイケル・ダントニオ)

ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト。ビジネス、サイエンス、スポーツと多岐にわたるジャンルで15冊を超える本を執筆。チョコレート王を描いたHershey(未訳)はビジネスウィークの年間ベスト書の1冊に選ばれた。ノンフィクション映画、Crown Hightsの脚本で、人間の尊厳や自由を訴える優れた作品に贈られるヒューマニタス賞を受賞。


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