マルハニチロはなぜ冷凍食品の異臭を「農薬」と結びつけられなかったのか?窪田順生の時事日想(2/3 ページ)

» 2014年01月07日 08時34分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

目の前にある「現実」から目をそらす

 例えば、外から見ると「十分ありえるだろう」というリスクを「現実的ではない」と言い切る。こちらは、荒唐無稽な話をしているわけではないのに、「ウチの会社ではちょっとそれは考えられませんよ」なんて笑い飛ばす。つまり、組織の中にいると「あって欲しくない」ことを「ありえない」と錯覚してしまう人が非常に多いのだ。

 そして、こういう人がトップにいる企業に限って、後々とんでもない不祥事が起きたりする。アクリフーズの記者会見や報道を見ていると、そんな企業と同じ匂いがプンプンする。

 消費者から、「おかしな匂いがする」というクレームが続けば、まず「異物混入」を疑うのは当然だ。しかし、異物の混入というのは、自分たちの製造工程、安全管理を否定する。それはアクリフーズにとって、「あって欲しくない」ことだ。

 そんな暗い気持ちに陥っている時、誰かが言う。

 「9月に工場を改装したから、その塗装が紛れこんだんじゃないの?」

 まるで暗闇のなかで一筋の光が差し込んだように、ワッとみんながその仮説に飛びつく。「それが現実的だ」「そうとしか考えられない」なんて声をかけ合いながら。自分たちの存在を全否定するような答えよりも、こちらの過失のほうが遥かに魅力的だからだ。

 こうして、アクリフーズの田辺裕社長が記者会見でおっしゃったような、「ペンキなどの匂いが付く可能性を追いかけたため、農薬を特定する作業が遅れた」という状況が生まれる。

 同社は12月17日に検査機関に残留農薬を調べてもらっているのだが、その理由は「農薬によるにおいでないことを証明するため」だったという。つまり、彼らは目の前にある「現実」から目をそらし、自分たちの望む答えをつくり出すことに、1カ月以上を費やしていたということになる。

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