住民投票での決着になるのか――宇都宮市のLRT計画杉山淳一の時事日想(5/6 ページ)

» 2013年12月06日 06時21分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

成功例、富山市のLRTは“コンパクトシティの手段”

 2006年の富山ライトレールの開業をきっかけに各地でLRTが見直された。しかし、富山市と宇都宮市ではLRTに対する考え方が違う。富山市では富山ライトレールが成功し、富山地方鉄道の市内循環路線が新規開業でき、北陸新幹線開業に合わせて両者を相互乗り入れさせる計画だ。富山市がなぜLRTを推進しているか。その理由は、都市の拡散を抑制し、人々の生活域を集中させて、徒歩または公共交通機関のみで暮らせる街を目指しているからだ。

 富山市は広大な平野部にあり、県庁所在地のある都市としては最も人口密度が低い。持ち家に住む生活が当たり前で、秋田県に次いで全国2位の持ち家率を誇る。戸建て志向が強く、郊外の地価も安い。その結果、人口密度の低いまま市街地が広がっていった。こうなると必然的にクルマの利用者が増えていく。一方でクルマを運転できる人とできない人の格差が大きくなった。高齢化社会を迎え、人口は減り、クルマを運転できない人が増えていく。拡散した都市機能の維持にはコストがかかる。そこで、街全体の拡散を引き止め、コンパクトな街をつくり、ゆるやかに人々を都市中心部へ誘導する施策が行われている。そのために必要な道具がLRTであった。

富山市はLRT以前から「コンパクトシティ」を模索(出典:国土交通省)

 人々を都市に誘導する政策として、具体的には「富山市まちなか居住推進事業」がある。このうち「まちなか住宅取得支援事業」では、富山駅周辺で一定以上の面積の戸建住宅や分譲型集合住宅を取得する場合、金融機関からの借入額から3%、50万円を上限に補助する制度だ。その他「共同住宅の建設促進」「優良賃貸住宅補助」「住宅転用支援」「賃貸家賃補助」「リフォーム補助」「ディスポーザー設置」など、都心部に移住する人への支援メニューをいくつも用意している。

 また、LRTに限らず、地域専用のレンタサイクル促進事業なども実施。「マイカー利用より便利な都市づくり」を目指している。マイカーやバスを敵視しているのではなく、市民に多くの選択肢を与える政策だ。自然に公共交通機関へ移転してもらい、都市生活に馴染んでもらおう、という考え方だ。富山市にとってLRTは、富山市全体をデザインする上で必要な交通手段のひとつにすぎない。

市民に選択肢を用意し、都市部の魅力を高めて誘導していく(出典:国土交通省)

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