そして2013年。交通政策基本法によってどうなるか。同法は鉄道事業の開始や廃止に制限をかける法律ではない。今後も赤字を理由に廃止となる路線が出てくるだろう。しかし、鉄道路線がなくなると、沿線の人々の交通手段はどう確保するのか。ここで交通政策基本法に定めた「国や自治体の責任」が効いてくる。
極論すると、これまでは「鉄道路線がなくなります」「自治体や第三セクターが代行パスを用意します」「代行バスの赤字がかさみ、議会で廃止が決定しました」で終わり。その後は沿線住民が自ら交通手段を確保しなくてはいけない。あるいは不便な地域を離れ、便利なところへ移住する必要がある。住民はその結果を受け止めなくてはいけなかった。
しかし交通政策基本法で交通権が認められると、「代行バスの赤字がかさみ、議会で廃止が決定しました」について、交通権の侵害として司法の判断を問える。自治体や国には交通権を確保する義務があるから、赤字だからと言って交通手段を廃止してはいけない。住民がそのまま居住の自由や権利を行使するために、カーシェアリングやタクシー利用料金の補助など、代替手段を講じなくてはいけない。道路についても同じだ。生活に不便な道路状況を自治体が放置した場合、国民は交通権を主張し回復を訴える権利を持った。
JR西日本の和歌山線は交通権と縁が深い路線だ。国鉄時代の1991年、赤字ローカル線の割増運賃を不服とする利用者が裁判を起こし、日本で初めて交通権が争われた。原告の主張は「国民は、自らの生活をよりよく向上させ、ひいては住みよい国土を建設する手段としての全国的交通網を国家に対して要求する権利を持つものと解される。これは移動の自由(憲法第ニ二条第1項)、幸福追求権(一三条)、生存権(二五条1項)の集合であり、交通権と称することができる」。当時の判決はこの主張を認めなかった。(参照:国土交通省、PDF)
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