新ポスティング制度を座礁させた“選手会ネクタイ組”の存在臼北信行のスポーツ裏ネタ通信(2/3 ページ)

» 2013年11月27日 00時00分 公開
[臼北信行,Business Media 誠]

新ポスティング制度がこじれている理由は選手会の戦術ミスだ

 過去にMLBとNPBの橋渡し役を担っていた経験を持つ代理人関係者は、こう解説する。

 「日本側が11日のNPBと選手会の事務折衝後に了承すると返事をしておけば、MLBは受け入れた。選手会関係者が『まさかメジャーが“情勢が変わった”などと言って修正案を出す強行姿勢に出てくるとは夢にも思わなかった』と青ざめながら慌てふためいているように、日本の選手会は完全に戦術を誤ったのです。

 田中のことを考えれば時間が押し迫っている以上、今後は日本の選手会も米国側の修正案にかみ付く余裕はなく全面的に受け入れざるを得ない。選手会が再び『NO』を突き付ければ、彼らは田中のメジャー行きを阻んだ悪者として世間から糾弾されますから、それだけは避けたいでしょう。

 ただ今回の選手会の失敗は、田中と楽天の運命を大きく左右するミスになるかもしれない。選手会がイチャモンをつけたことで新ポスティングの成立が大幅に遅れ、その間に各メジャー球団の補強はどんどん進むわけですから『もう田中は必要ない』と手を引くところも数多く出てくるはず。そうなれば田中の価値は必然的に下がるわけです。

 『選手のため』というスタンスで行ったことが、結果として田中の首を絞める形になった。これはもう本末転倒。そうなることを予測できなかった選手会の責任は重い。彼らは、その点を反省し悔い改めるべきでしょう。

 日本の選手会は2013年3月のWBC出場をめぐって『MLBと米選手会が利益のほとんどを得る現状は不平等だ』とボイコット騒ぎも起こしていますが、そんな彼らを米国内では『クレーマーグループ』と見る向きもあります。実際、今回MLBが態度を硬化させた背景には『クレーマーグループの連中たちに意趣返しする機会を狙っていた』という話もあります」

所属選手たちも「ネクタイ組がおかしい」と憤る

 日本の選手会に対するブーイングは米国内からだけではない。NPB内部からも聞こえてくる。

 「彼らはその後にイニシアチブを取ることばかりを考え、ただ文句を言えばいいと思っている傾向があり、周りがよく見えていない。今回のポスティングの一件でイチャモンを付けてきたのもまさにそれで、権利を履き違えている。スンナリとOKしてしまえば、われわれにナメられると思っているようだ」

 もちろん選手会の暴走行為に歯止めをかけられないNPBサイドの交渉能力にも問題はある。だが、ここで特筆すべきなのは選手会に所属している選手たちからも不満の声が噴出していること。つまり、選手会の一員であるはずの各プロ野球球団の所属選手たちが「今の選手会は明らかにおかしい」と口をそろえ始めている点だ。

 ある在京球団の主力選手は、こう憤る。

 「WBCのボイコット騒動のときもそうでしたが、選手会は所属選手全員に議題についてキチンと内容を知らせないまま話を進めるケースが実は多い。今回、新ポスティングの導入に選手会が反対したのもメディアの報道を見て知った選手が大半でしたよ。こんな組合組織って他にありますか?

 普通は重大な案件があれば、事前に組合員全員の議決を取らなきゃいけないでしょう。ハッキリ言いますけど、今の組織は選手会会長の嶋(基宏=楽天)さんだって運営に関することはキチンと把握できていないですよ。本業は選手だからこれはある意味で仕方がないとは思いますけど……。

 『ネクタイ組』と呼ばれる選手以外の幹部職の人たちに任せっきりなのが実状。でも、これでは選手会の体をなしていないですよね。なんだか密室の中にいる『ネクタイ組』の人たちに独断と偏見で大事なことが決められているようで、とても不安です」

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