1977年生まれ。建設業界と葬祭業界を経て2002年にライターへ転職し、テクニカル系の記事執筆と死の周辺の実情調査を進める。ネット上の死の現状をまとめたルポ『死んでからも残り続ける「生の痕跡」』(新潮45eBooklet)を各種電子書籍サイトで販売中。ブログは「古田雄介のブログ」。
持ち主が死んだ後の情報端末の処理を請け負うという、あるサービスの公式サイトをのぞいた。今風のデザインできれいに整っており、サクサクとサービスの概要や料金体系を把握していけた。
トップページにつづられているのはサービスの社会的意義だ。遺品の整理中にケータイ内のデータから不倫がバレた名士や、死後に破棄した端末が海外に流れて口座番号が抜かれた男性の事例を引き合いにして、死後に個人情報が災いの元になる危険を訴えている。複数の大学の教授や准教授が寄稿した「今の時代はこういうサービスが必要」といった推薦文もある。
サービスの具体的な流れや料金体系は別のページにまとめられていた。配送料は利用者側の負担となるが、1台あたり数百〜5000円以下という利用料金はPCのリサイクル料金と比べても高くない。そのほか、運営団体や電話やメールの問い合わせ先などの情報は大きくはっきりと表記されている。
サイトを一読した率直な感想は、「信用できない」だった。
情報漏えいの危険を訴えておきながら、ネット上に残ったデータやアカウントへの言及はないし、事実かどうか裏付けようがない極端な事例で不安をあおったり、実際の工程の説明よりも権威付けによる説得力のかさ上げを優先したりする姿勢に不誠実さがにじんでいる。とはいえ、料金体系は至極まともで、詐欺師のような感じはない。単に、楽して商売しようという心構えが透けてみえるだけだ。ただし、そこが重要。そんなところに大切な人の情報端末の処理を委ねる気にならない。
問題は、最近ネット上で急速に増えている終活系サービスには「同じ匂い」がするものがけっこう多いということだ(※ネットの終活系サービスには、オンラインで完結するものから、実際の葬儀や相続処理の窓口になるものまでさまざまあるが、この原稿ではひと括りに「終活系サービス」と呼ぶ)。
ネット上では今、ユーザーの死に対する整備を進める動きが世界中で起きている。それとは別に、日本では2040年ごろにピークを迎える多死社会に向けて、相続対策や生前準備といった終活ビジネスが盛り上がっている。日本のネット界隈で最近終活系サービスの立ち上げが目立っているのは、この2つの潮流が重なり合っていることと無関係ではない。
数が多ければ、どうしても当たり外れが出る。だから、利用者がマトモなサービスを見分ける目を持つことが重要だ。そのために、まずは終活系サービスをグループ分けしよう。信頼性という視点で観察すると、次のように分けられる。
終活系サービスは、生前準備して死ぬまで付き合ったり、近親者の死後しばらくお世話になったりするものが多いので、数十年スパンでの利用を想定したほうがいい。ネットにおける「10年」の変化は大きい(10年前の2003年にはmixiもまだ誕生していなかった!)。どれだけ真面目に取り組んでいても、商業的に成功していても、10年先までサービスを保証するのは至難の業。だから、選択肢をAランクだけに絞り込むのは現実的ではない。Bランク以上が理想だ。10年後に残っているか分からないが、とりあえず地に足ついて真面目にサービスを提供してくれそうなところ。ここで線引きしたい。
100を越える終活系サービスを調べた経験から、筆者はBランクとCランク以下の間には次のような差があると考える。チェックが入った項目がおおよそ、0〜2項目ならBランク以上、3〜5項目ならCランク、6〜10項目ならDランクだ。
01〜04は、利用者に対する直接的な不誠実さの現れだ。とくに「よくある質問」の充実度には差がはっきりと出るので、サービス登録前には必ずチェックしたい。よくある質問は、自身のサービスの弱点や課題を具体的に把握して、それを隠さないという姿勢がないと決して充実しない。ユーザーからの質問で成長する場合もあるので、長い目でウオッチするのが理想だ。なお、料金の高低だけをみて比較するのは避けたほうがいい。値段よりも重要なのは、相場から外れている場合に根拠がしっかり書かれていることだ。
05〜08は過剰な宣伝活動の現れだ。本業の実績を積むよりもSEO対策などに力を入れて空っぽの知名度だけを得ようとする姿勢がうかがわれる。ない実績をかさ上げしようというサービスは要注意だ。
09はギャンブル的に新規サービスを立ち上げる企業にままみられる。住所を検索してヒットした別の団体名で検索にかけるなどすると、叩けばホコリが出そうな団体なら不審な情報がいくつも出てくる。ただし、ウワサはウワサと割り切る視点も重要だ。10はまぁ……推して知るべし。
どれだけ設備が整っていたり画期的に見えたりしても、そのサービスを扱う人間が真剣に向き合い続けないと、それは終活ごっこサービスにしかならない。ごっこサービスに大切な遺志を委ねないように、最低限の手間はかけたほうがいい。
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