キリスト教やイスラム教など、世界の宗教には聖地があり、巡礼という宗教的行為が存在する。そして、オタクにも「聖地巡礼」という独特の儀式が存在する。作品を神として崇め、その作品に登場する舞台を聖地として実際に訪れるというものだ。
例えば先述の『新世紀エヴァンゲリオン』であれば神奈川県足柄下郡箱根町、『涼宮ハルヒの憂鬱』(※2)であれば兵庫県西宮市、『千と千尋の神隠し』(※3)であれば台湾の九フン(フンはにんべんに分ける)が聖地となる。なお、作品に登場すれば全てが聖地となるので、聖地が複数の市や場所にまたがっている場合も多い。
「エヴァローソン」を行った箱根町は現在も町をあげてエヴァンゲリオンとのコラボレーションを行っており、多くのファンを取り込むことで町の活性化を目指している。最近では「箱根補完マップ ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」を箱根山仙石原文化センターで先行配布し、郵便局で限定の『オリジナルフレーム切手セット 第3新東京市にようこそ ヱヴァンゲリヲン新劇場版(1500円)』を販売、箱根町の公用車を綾波レイの痛車にカスタマイズした。
また、『らき☆すた』(※4)で聖地とされている埼玉県久喜市鷲宮の鷲宮神社にも毎年初詣などに多くのオタクが押しかけている(鷲宮神社は『らき☆すた』に登場するキャラクターの実家という設定になっている)。
実はこの鷲宮こそが近年の、町ぐるみで作品を取り入れるという「聖地推奨型地域」のはしりなのである。鷲宮神社は鷲宮商工会と協力して『らき☆すた』の版権を取り、地域限定の木製のキーホルダーを7種類製作して、鷲宮町(当時。現在は合併して久喜市鷲宮)のいくつかの店舗で種類を分けて販売した。
これがオタクの興味を誘い、爆発的な巡礼者を獲得したのである。オリジナルキーホルダーは当然鷲宮町へ行かなければ手に入らず、その限定品を全てコンプリートするには各店舗をまさに“巡礼”する必要があった。また、巡礼に行ったオタクは、オタクコンテンツというものに半信半疑でありながらも自分たちを好意的に受け入れてくれる町の人に好感を持ち、町のファンにもなっていったのである。その後、鷲宮商工会は限定グッズが貰える飲食店のスタンプラリーを行ったり、「ツンダレソース」などの現地限定グッズを販売し、『らき☆すた』という作品を全力で取り込むことで町おこしに成功した。
2010年の『らき☆すた』による鷲宮町の経済効果は10億円以上で、以後3年間で22億円以上もの経済効果をもたらしたと言われている。また、日本の長寿番組である『サザエさん』も、オープニングに使われた地域が観光客で賑わうということで、水面下で各地域による争奪戦が行われている。ここ1年では『ガールズ&パンツァー』(※5)の影響で、茨城県大洗町が人気の聖地となった。2013年7月13日には町の派遣要請を陸上自衛隊が快諾、10式戦車と儀仗隊が大洗港に登場して大きなニュースとして取り上げられた。
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