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» 2013年11月13日 07時30分 UPDATE

藤田正美の時事日想:欧州中央銀行の政策金利が史上最低に、景気回復への方策は?

欧州中央銀行(ECB)の政策金利が低下し、ユーロ圏が再びデフレに陥るリスクが高まった。ECBが欧州内の銀行をまとめ上げ、地盤の強化を図る必要があるが、その障害は多く厳しい道のりになる。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


photo 欧州中央銀行は政策金利のリファイナンス金利を0.25ポイント引き下げて史上最低の0.25%とした

 世界経済はよろめきながらも何とか回復に向かっているように見えるが、欧州については不安が大きい。11月7日、ECB(欧州中央銀行)は政策金利のリファイナンス金利を0.25ポイント引き下げて史上最低の0.25%にした。ドラギ総裁がこの引き下げを決断したのは、ユーロ圏のインフレ率が下がったからだ。ユーロ圏における10月のCPI(消費者物価指数)は速報値だが0.7%と前月より鈍化した。ECBは2%弱の消費者物価上昇率を目標としているが、想定よりインフレ率が下がったことがこの予想外の利下げにつながった。

 これは欧州の景気回復力が弱く、デフレに陥るリスクが高まったことを意味する。このデフレに関しては、日本を反面教師として“too little,too late”にならないようにというのが欧米の中央銀行関係者の「合い言葉」になっている。

今のユーロ圏はバブル崩壊後の日本と似た状況

 ユーロ圏の問題は依然として銀行の体力だ。2008年に起きたリーマンショックの震源地だった米国は、金融機関の自己資本強化に努め、不良債権の償却を行った結果、預金に対する融資の比率が75%まで下がったという。これは金融機関は新たに資金を融資する力がついたということだ。対してユーロ圏はいまだにその比率が110%前後だ。しかもこの融資の中にはいわゆる不良債権も含まれており、その比率は日本の“最初の”失われた10年のときの比率と同じだという。

 バブルが弾けて以来、なぜ日本は長い間経済が停滞しデフレに陥ってしまったのか。日本銀行が金融緩和を出し惜しみしたためとされているが、それだけではあるまい。確かに黒田東彦氏が日銀総裁になって以降、円安が進み、日本の輸出関連企業が一息ついたのは事実だが、黒田氏が目指す2%というインフレターゲットに近づいているという印象は薄い。

 このまま国内需要があまり増えず、輸出のほうが強いという状況が続けば、再び円高になる可能性もある。これと同じように、ユーロはギリシャやスペインといった加盟国の債務危機が収まったように見えてからぐんぐんと為替レートを上げた(円はそれだけ安くなった)。円高になれば輸入物価が下がり、輸出企業は再び苦しくなってしまう。

 この状態を打開するためには、まず金融機関の強化と整理を行う必要がある。不良債権処理をするためには自己資本の強化が欠かせない。場合によっては金融機関の大合同による体力強化も必要だろう。

カギを握るECBの「銀行同盟」

 今ユーロ圏はようやく「銀行同盟」に踏み出したところだ。銀行同盟とはこれまでのように加盟国の中央銀行がそれぞれの銀行を監督するのではなく、ECBが唯一の中央銀行としてユーロ圏の銀行を監督するということである。中央銀行と同じように銀行の破たん処理もECBが行い、もちろん預金保険機構も1つにする。

 しかしこの過程は厳しい道のりになる。銀行の体力を回復させるというのは、いわゆるゾンビ企業(死に体だが銀行の融資があるため続いている企業)を処理する、すなわち破たんさせることになるからだ。日本における代表格はダイエーだった。ユーロ圏でこうした“戦後処理”が進むには各国の協力が必要だ。処理の資金面だけではなく、各国の国内政治もハードルになる。どの国だって、自国内の企業や銀行を潰されるの嫌に決まっているし、失業した人々の怨嗟(えんさ)を受けるのはECBではなくその国の政治家だ。

 それにこの処理を円滑に進めるためには、ドイツなどの豊かな国が、豊かではない国(ギリシャなど)にどれだけ支援するかが必ず問題になる。日本で言えば、地方交付税交付金のような形で、政府が豊かではない自治体に相応の金を配るが、ユーロ圏にまだその仕組みはない。

 「自助努力」を強調してきたドイツのメルケル首相は、先の総選挙で勝ったとはいえ、これまでの連立相手が議席を失ったため、最大野党の社会民主党(SPD)と大連立を組む交渉を行っている。これによって弱い国に対する姿勢が変化する可能性もあるが、他国に対する支援はドイツの国内では評判が悪い。とはいえ、ユーロ圏内の不均衡という脆弱性を解決しないと通貨同盟そのものが危うくなるため、いずれドイツも妥協せざるを得なくなるだろう。

 ただこのようなユーロの体質改善によってデフレに陥らずにすむかどうかは微妙であり、もしユーロ圏が失速することがあれば、欧州市場に輸出する中国が再び失速し、それが日本に跳ね返ってくる。その前にアベノミクスの“第3の矢”が動きださないと、日本は再び厳しい状況に追い込まれる可能性があると思う。日本も時間は限られているのだ。

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