時代の空気を読めない男が、“ヒット作請負人”になれた理由これからの働き方、新時代のリーダー(後編)(1/5 ページ)

» 2013年11月13日 08時10分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

これからの働き方、新時代のリーダー:

 佐渡島庸平――。彼の名前が一般の人に注目され始めたのは、1年ほど前からだ。2012年10月、講談社を辞めて、エージェント集団「コルク」を設立。彼は『モーニング』の編集者として、たくさんのヒット作を世に送り出してきた。『バガボンド』『ドランゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』といった漫画だけではなく、小説にも関わってきた。いわば“ヒット作請負人”として活躍してきたが、なぜ講談社を飛び出し、エージェントの道を選んだのだろうか。

 「エージェント」を直訳すると「交渉人」とか「代理人」という意味だが、中には「“中抜き業者”のことでしょ」と思っている人も多いだろう。わざわざ誤解を招きそうな言葉を使っているが、佐渡島さんは「編集者を辞めたわけではありません。作家側の人間になるために『エージェント』という立場にこだわりました」という。これはどういう意味なのか? 編集プロダクションやフリーの編集者とは何が違うのか? Business Media 誠編集部の土肥義則が聞いてきた。全3回でお送りする。

 →作家のエージェントって何? 『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』の編集者に聞く(前編)

 →出版不況が続くのに、編集者が生き残るワケ(中編)

 →後編、本記事


プロフィール:

佐渡島庸平

 1979年生まれ。中学時代を南アフリカ共和国で過ごし、灘高校に進学。2002年に東京大学文学部を卒業後、講談社に入社し、モーニング編集部で井上雄彦『バガボンド』、安野モヨコ『さくらん』のサブ担当を務める。2003年に立ち上げた三田紀房『ドラゴン桜』は600万部のセールスを記録。小山宙哉『宇宙兄弟』も累計1000万部超のメガヒットに育て上げた。伊坂幸太郎『モダンタイムス』、平野啓一郎『空白を満たしなさい』など小説連載も担当。2012年10月、講談社を退社し、作家エージェント会社、コルクを創業。


時代の空気を読んでいない

土肥:佐渡島さんは講談社に10年間在籍され、漫画雑誌『モーニング』で『バガボンド』『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』の編集に携われました。漫画だけではなく、伊坂幸太郎さんの『モダンタイムス』、平野啓一郎さんの『空白を満たさない』など小説の分野でも活躍されてきました。

 これまでたくさんのヒット作に関わってこられたのですが、ご自身で分析して、自分の強みは何だと思いますか。

佐渡島:私が編集に携わってきた作品って、時代の空気を読んでいないんですよ。

土肥:おお、それは意外な答えですね。ヒット作を評するときに「この作品は、時代にマッチしている」といったことをよく聞きますが、佐渡島さんが携われた作品はそうではないと?

佐渡島:はい。なので、連載がスタートしてもすぐに人気がでません。『ドラゴン桜』も『宇宙兄弟』もなかなか売れませんでした。でも編集している私は、チョー面白いと思っているんですよ。「こんなに面白い作品が売れないなんて、何かがおかしい」と(苦笑)。

 そして「これではいけない。なんとかしなければ」ということで、がんばります。どうやったら売れるのか、といったことを必死になって考える。3年くらい考えて、考えて、考えて……で、そのときにはだいたい“答え”が出ています。

土肥:漫画の世界って、競争が厳しいといったイメージがあります。2〜3年以内にある程度の結果を出さないと、打ち切りになってしまうのでは。

佐渡島:ある程度の結果が出ていなくても、「自分が楽しい。この作品は面白い」と感じることができていたら、がんばれます。そのとき「自分は面白いと思っているのに、どうして世間の人は分かってくれないのか」と思ってはいけません。悪いのは読者ではなく、編集している自分にある。伝え方にミスがあるはずなので、宣伝方法などで工夫したりしますね。

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