夜行列車はなぜ誕生し、衰退したのか杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)

» 2013年11月08日 00時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

民間事業では「あけぼの」を維持できない

使用する客車は30〜40年も前に作られた

 河北新報によると、「あけぼの」廃止の理由は乗客の減少と車両の老朽化とのことである。車両の老朽化は私も何度か利用して感じた。しかし、乗客の減少はちょっとニュアンスが違う。正しくは「コストと売り上げのバランスが取れる乗客数ではない」だろう。現在も繁忙期はなかなかチケットが取れない列車だし、私が9月に乗った時は、夏休みを外した時期にもかかわらず満席だった。車掌さんの話では「オトキュー(大人の休日倶楽部の乗り放題パス)の時期ですから」とのことだった。

 こうした割引きっぷ利用客が多かったことも「あけぼの」の収益に不利だったはずだ。東京からは「青森・函館フリーきっぷ」(販売終了)など「あけぼの」を利用できる企画割引きっぷの利用者が多く、秋田からは「ゴロンとシート東京往復きっぷ」の人気が高い。座席数が限られているとはいえ、大人往復1万6000円。つまり片道8000円で「あけぼの」に乗れた。「ゴロンとシート」は寝台利用金が不要の代わりに、毛布なし、枕なしの座席として寝台を提供する制度だ。1列車につき2両、約60席しかない。

 ちなみに「ゴロンとシート東京往復きっぷ」は2014年3月31日までの発売で、有効期間は2014年5月6日。だから廃止は2014年5月6日という説もある。ただし、このきっぷは「ゴロンとシート」が確保できる時のみ発売という条件付きだ。列車そのものが廃止されれば有効期間内でも販売されない。

 「あけぼの」の客車は1970年代の製造で、30〜40年も走り続けた。存続させるなら新造車両が必要だろう。現在の「あけぼの」は車両が減価償却を終えているからなんとか存続できる。新型を投入すれば、車両償却費の分だけ赤字がかさむ。株式会社として、現在の「あけぼの」の売り上げは小さく、今後、明らかな赤字事業は継続できない。秋田―東京間の輸送需要は新幹線で代替でき、公共性は維持できる。そういう判断だろう。

 もちろんそれはタテマエで、高速バスや格安航空チケットの台頭、廉価なビジネスホテルチェーンの誕生という本音もあるだろう。夜行列車の「移動する道具」「寝る道具」は、すでに強力なライバルがいる。そして価格では競争にならない。

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