コラム
» 2013年11月06日 07時00分 UPDATE

藤田正美の時事日想:北方領土問題を抱える日本とロシアが仲良くなるカギ

2プラス2会談が開催された日本とロシア。北方領土問題など懸案は多いが、共通の利害を上手く使えばこうした問題も解決に向かうかもしれない。今、戦後初めてと言っていいほどの大きなチャンスが訪れている。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 日本とロシアの2プラス2(外相+防衛相)会談が11月2日に行われた。米国以外の国と2プラス2で会談するのは初めてであり、大きな注目を集めている。安倍首相が就任してからまだ10カ月ほどだが、すでにプーチン大統領と4回も会談するなど、日露は急接近している。

 第2次世界大戦後の平和条約はいまだに結ばれていないし、北方領土問題も未解決のままロシアの実効支配が続くなど、日露間には懸案が多い。しかし今日本とロシアの間で、共通の利害が生まれている。その共通の利害をうまく使えば、1951年のサンフランシスコ講和条約に加わらなかったロシアと平和条約の締結に向けて歩を進めることができるかもしれない。戦後初めてと言っていいほどの大きなチャンスが訪れているのだ。

天然ガスを日本に売りたいロシア

photo ロシアの天然ガスは世界最大の埋蔵量を誇る

 日露共通の利害としてまず挙げられるのはエネルギーだ。ロシアは石油や天然ガスの産出国で、天然ガスは世界最大の埋蔵量を誇る。旧来ロシアはパイプラインでウクライナなどを経由し、欧州に天然ガスを売っていたが、現在欧州諸国はロシアからのガス輸入を減らす方向に動いている。

 その理由は大きく2つある。まずは安全保障上の理由だ。かつてウクライナとロシアがガスの価格を巡って対立し、ロシアがウクライナへのガス供給を止め、欧州がそのとばっちりを受けてガスを受け取ることができなくなったことがある。それ以来欧州、とりわけドイツはロシアに対して警戒感を抱くようになり、ロシアを経由しないガスの輸入を増やそうとしているのだ。

 もう1つは米国のシェール革命だ。現在米国はエネルギーの輸入国から輸出国へと変わりつつあり、米国に輸出していた中東産のガスは欧州に輸出されるようになった。これによって、ロシアは欧州向けにガスを増やしづらくなっている。

 資源の輸出はロシアにとって経済の柱だ。ソ連が崩壊して以来、ロシアは工業化を図ってきたが、少なくとも現段階でロシアの製造業が世界市場を相手に競争力を維持するには至っていない。ロシアにとってはエネルギーの売り先を確保することが至上命題であり、大統領を2期12年(2024年まで)務めたいプーチン大統領にとっても、極めて重要な問題と言える。

 ロシアが欧州の代わりに狙う市場はアジア。中国や韓国、そして日本だ。中でも日本は信頼できるビジネスパートナーとロシア側は考えているという。日本にとってはエネルギー供給元の多様化は重要な課題だ。現状、原子力は再稼働できるかどうかまだ不透明で、輸送ルートが南シナ海を通らないエネルギーはほとんどない。

 2017年から2018年にかけては、米国から天然ガス輸入がある。もちろんロシアから天然ガスを買うことが決まってもそのころになるだろうが、輸入先の多様化にはつながる。エネルギー安全保障や価格交渉のためには、供給元の多様化がどうしても必要になる。

中国という“脅威”に対し日露で連携せよ

photo 北方領土問題が日露連携の最も大きな障害となる

 日露にはもう1つ共通の利害がある。それは中国という“脅威”だ。軍事力とりわけ海洋進出に熱心な中国の存在は日本にとって脅威となっているが、中国と長い国境線を接しているロシアはなおさらだ。

 もともとソ連の一部だった中央アジアは、資源の売り先を中国に求めつつあるし、中国もこれらの地域であればパイプラインで輸入できるというメリットがある(新疆(しんきょう)ウィグル自治区をパイプラインが通ることには懸念を抱いているようだが)。しかし中央アジア諸国と中国の間が近くなることは、ロシアにとって面白いことではない。

 この脅威に対峙するためには日本とロシアが手を結ぶしかないが、北方四島が大きな障害となる。日本が四島一括返還にこだわる限りは、交渉はまとまらないだろう。一方のロシアも北方四島問題が解決しないと平和条約交渉はできない、という態度をかたくなに取り続ける限り譲歩はしにくい。互いの条件に対していかに柔軟に対応できるか(極論、領土交渉を棚上げするという方法もあり得ると思うが)が日露の将来を左右することになる。

 この問題は日露という外交の課題であると同時に日本にとって国内問題でもある。四島一括返還という感情的に国民の支持を得やすい議論から抜け出し、現実的に選択できる政策で国民を説得できるか。これは安倍首相のリーダーシップにかかっている。

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