繊細で神経質な人ほど、一流になれる勝者のための鉄則55(2/2 ページ)

» 2013年11月04日 08時00分 公開
[張本勲,Business Media 誠]
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明日、またヒットを打てる保証はどこにもない

 野村克也さんが現役の頃の話だ。対南海ホークス戦で、私は4打数3安打した。そして迎えた5打席目。きわどいコースをストライクと判定されたので、「どこがストライクだ!」と、アンパイアに抗議したことがある。すると野村さんが、例のぼやきで「いったい、おまえはなんぼヒットを打ったら気が済むんや」と呟いた。すかさず、私は「うるせえ! 明日またヒットを打てる保証がどこにあるんですか」と食ってかかったことがある。

 その試合でシーズンが終わるならまだしも、翌日、4打数でヒットなしの可能性だってある。そう考えたら、今日3安打したからといって浮かれてはいられない。翌日、ヒットを打てる保証がない限り、目の前の打席で1本でも多く打っておきたい。私は好調時でも自分を疑い、その1打席に集中し、成績につなげてきた。

 逆に自分に慢心し、安心すると、思わぬところで足をすくわれることもある。名前はあえて出さないが、素質もあって成績もそこそこ、顔が良くてスター性もあって球団も期待しているような選手が、ケガでその後の野球人生を台無しにしてしまうケースがあった。もともと身体が硬かったのかもしれないが、試合前のストレッチをおろそかにしたのだろう。スポーツ選手は細心の注意を払って自分の身体のケアをしなければいけないのだが、つい面倒くさくなって柔軟体操を怠ったのかもしれない。だが結局、慢心したツケはいつか自分に返ってくる。

 野球選手に限らない。角界でもプロゴルファーでも、囲碁でも将棋でも、大成する人は一見、度量が広く大胆で、小事にこだわらないように見えるが、みんな繊細で神経が細やかで、臆病な人ばかりだ。見た目には強面で喧嘩っ早そうな印象を与えている私にしたって、繊細で神経質なのは一緒に生活しているワイフがよく知っている。不安だから、いつもバットを振っていないと気が済まないし、食事の途中でも10本、20本と振りに行って、また戻ってきて食事する。しばらくして「明日はあいつが投げるかも」と思い立つと、また席を立って、振りに行く。「ちょっと、食事の時くらい落ち着いて食べたら」と、よく小言を言われたものだ。

 勝負に生きる人はとくに顕著かもしれないが、一般の社会でも共通するところがあるのではないだろうか。自分の周囲をよく見渡してみてほしい。仕事のできる人は、どこか繊細で臆病ではないだろうか。

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