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» 2013年11月01日 08時00分 UPDATE

杉山淳一の時事日想:「ななつ星in九州」に見る、乗客をつくるビジネス (1/6)

鉄道会社が観光列車開発に力を入れ始めた。日本に新たな旅の文化が生まれたと言っていい。こうした「鉄道で遊ぶビジネス」は、鉄道会社が苦手としていたが、他の業界では当たり前のことだった。

[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 鉄道会社が観光列車に力を入れている。新聞やビジネス誌などの分析によると、その理由は少子化によって鉄道の旅客収入が伸び悩み、新たな収益源を必要としているからだという。実に面白い。そしてくだらない。手っ取り早く鉄道業界のネタを短絡的に結びつけただけだ。知ったかぶりのおっさんが、飲み屋でもっともらしく語るウンチクには十分だろうけど、その程度にとどめておこう。

 なにしろ少子化による減収は膨大だ。ラッシュ時間帯に何本も走らせていた列車が不要になるというレベルである。鉄道路線をなくすか続けるか、という議論にもなる。いくら客単価を上げたって、1日1本や2本の観光列車の収入増で補えるわけがない。焼け石に水だ。「観光列車が少子化対策」なんて話をうのみにすると、鉄道事業や観光事業の本質を見失う。

 ちなみに「ななつ星in九州」の年間の売り上げは約5億円(関連記事)。まとまった数字に見えるけれど、車両の製造費やランニングコストが高すぎて、年間の利益見込みは1500万円程度。青春18きっぷのほうがよっぽどもうかる。1セット11500円の青春18きっぷはJR全体で20億円以上を売り上げる。きっぷという紙切れを売るだけで、高額な設備投資はいらない。ほとんど丸もうけだ。

yd_sugiyama1.jpg ななつ星in九州公式サイト(出典:JR九州)

 飲食店も鉄道も、もうかる基本は「低単価高回転型」だ。どんなに付加価値を上げたところで、利用する人が少なければ市場は小さなままである。そして、忘れてはならないことをひとつ確認しておこう。多くのビジネスで少子化の影響はある。その時期が5年先か、10年先か、50年先かの違いでしかない。

 そんな中で、どうして鉄道会社が観光列車に力を入れるのだろうか。理由はいたってシンプルである。「需要がなければ作り出せばいい」という、ビジネスの基本にようやく気がついた。それだけだ。乗客がいなければ、乗客を生み出せばいい。そうすれば売り上げを増やせる。そのための観光列車である。それは、JR九州が「ななつ星in九州」を開発するまでの歴史を追うと分かる。

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