メジャー飛び級で日本野球界への退路を断たれた男の天国と地獄――田澤純一臼北信行のスポーツ裏ネタ通信(3/3 ページ)

» 2013年10月31日 08時00分 公開
[臼北信行,Business Media 誠]
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「地獄」のマイナー暮らしでハングリー精神が芽生える

田澤純一

 メジャー契約で入団したとはいえ、現地での待遇はマイナーの若手選手とほぼ同等。メジャーリーガーといえどもリハビリ中はマイナーの練習や試合時間に合わせて球場入りするため、特別扱いは一切許されない。

 球団がマイナー選手のために借り上げているコンドミニアムで寝泊りしなければならず、球場での食事も若手選手と同じメニュー。施設内の食堂のテーブルにはパンやハム、マーガリンが無造作に置かれ、練習が長引くと干からびたパサパサのパンしか残っていないことも珍しくなかった。仕方なく宿舎に戻り、街のスーパーで食材を買い込んで自炊することが多くなっていったという。

 マイナーには通訳がいなかったため、まだ英語が当時ほとんど話せなかった田澤は話し相手にも苦労した。さらにグラウンドを離れれば暇を持て余すことが多く、フォートマイヤーズの周辺には娯楽施設もないため、持参した本を読んだりポータブルゲームをしたりして時間をつぶした。

 「リハビリ中はスパイクを隠されるなど、いろいろ嫌がらせを受けたそうです。契約金が100ドル(約1万円)で月給500ドル(約5万円)にも満たない中南米出身の選手がマイナーにはゴロゴロいる。そういう選手から、メジャー契約の田澤は『まだ結果も出さず、若いくせにデカいツラしやがって』と嫉妬されてしまった」(レッドソックス関係者)

 一時は先の見えないリハビリに絶望感を覚え、親しい知人に「もう気が狂いそうです」とまで漏らしていたが、めげずに奮起。右ひじの状態は術後も日によって違和感が出たが徐々に安定し、地道に体幹を鍛え続けたことで故障前よりも投げ方に負担がかからなくなった。そして何より天国から地獄に叩き落され、底辺でのリハビリ生活を長期間味わったことによって田澤にはハングリー精神が身につき、別人と見まがうほどにたくましさが増した。

 2011年9月13日に2年ぶりのメジャー復帰。そして今季は不動のセットアッパーとして定着し、その素質を開花させた。屈強右腕の働きに、もう誰も文句を言う者などいない。「いろいろあったから、今のボクがある」とは田澤は言う。

 日本プロ野球界からつま弾きにされても、選手生命の危機となるような故障を患っても彼は絶対に諦めなかった。メジャーリーガー・田澤の強さは、そこにある。

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