松井秀喜は素質を生かし切れなかった……もったいない勝者のための鉄則55(2/2 ページ)

» 2013年10月31日 08時00分 公開
[張本勲,Business Media 誠]
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天性の素質を生かす“正しい技術”

 もう何度もいろんなところで話しているが、彼の最大の欠点は構えた時にピッチャー側の右足を上げ過ぎること。なぜ駄目なのか。それは打つ時に右足を上下させることで、頭が動き、目線が上下に動いてしまうからだ。視点が上下すれば、縦の変化に距離感が合わなくなり、結果、凡打になってしまう。

 長嶋さんも私と同じ意見だった。今のままなら2割6、7分の6番バッターになってしまう。たまにはホームラン王を獲るかもしれないが、まあ1、2回程度。でも彼の素質を考えたら、巨人の4番として三冠王を3、4回は獲らせたい。3割7、8分は打って、60本ぐらいホームランをかっ飛ばす。世界の王貞治を超えるバッターになってほしいから、とにかく右足の上下動を直したかった。だからキャンプで徹底的に「すり足打法」に改造しようと教えたのだが、これがなかなか上手くいかなかった。

 そもそも彼が、構えた時に右足を上げるのは、ボールを遠くに飛ばそうと力いっぱいスイングしようとするからだ。多くのバッターがそう思って足を上げるが、そもそも松井は足を上げなくてもボールを遠くへ飛ばすだけのパワーと素質を持っている。入団したとき、彼のフリーバッティングをキャンプで見たが、ものスゴい打球をかっ飛ばしていた。こんなヤツがいたのかと思うくらいだった。それもまた天性の素質なのだ。いくら飛ばそうと思ったって、普通はなかなかあんなに打球を飛ばすことはできない。だから、これ以上、遠くに飛ばそうと右足を上げる必要はないと思った。

 結局、松井は「すり足打法」を身に付けることができなかった。一時、長嶋監督の指導もあって右足の上下動が小さくなり、ホームラン王を3回獲ったが、米国に行ってまた元に戻ってしまった。

 彼が正しい技術を身に付けていたらどんなことになっていたか――。今でも夢に見るくらい、もったいなかったと思う。きっと日本でもメジャーでも、球史に残る偉大な記録を残したに違いない。人の成長を考えたとき、正しい技術というのはそれほどに重要な要素なのだ。

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