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» 2013年10月30日 07時00分 UPDATE

藤田正美の時事日想:アベノミクスが強気でいられるほど世界経済は楽観的ではない

IMF(国際通貨基金)が発表した「世界経済見通し」では、世界経済の成長にブレーキがかかっていることを示唆した。また、欧州中央銀行は銀行の健全性のチェックを始めた。ゾンビ企業への貸付を行う銀行には退場願うのだ。

[藤田正美,Business Media 誠]

 日本では何となくアベノミクスの話ばかりが議論される。この臨時国会でも、民主党はアベノミクスの影の部分や語られざるリスクをえぐろうとしているが、「実際に改善しているんですよ」と反論されて、議論を聞いているかぎりは「手も足も出ない」という感じになっている。日銀総裁に「出口戦略を明らかにせよ」と迫ったところなど、素人の議論と見紛うばかりだった。

 ただ安倍首相が本当に強気になれるほど、世界経済の状況は楽観的ではない。IMF(国際通貨基金)が発表した「世界経済見通し」(World Economic Outlook)は、世界経済の成長見通しを切り下げている。2013年は世界全体で2.9%(7月に比べて−0.3ポイント)、2014年は3.6%(同−0.2ポイント)といずれも下方修正された。

新興国を中心に成長率予測が下方修正

 この下方修正をもたらした主な原因は、新興国だ。例えば中国は、2013年が7.6%(−0.2ポイント)、2014年が7.3%(−0.4ポイント)と7月の予想に比べて下がった。通貨ルピー安に苦しむインドの下方修正はさらに大きい。それぞれ3.8%(−1.8ポイント)、5.1%(−1.1ポイント)だ。これはIMFが以前ほど、中国やインド、南アフリカなどの成長力に期待していないことを意味する。

 中国の成長力が落ちても、ASEAN(東南アジア諸国連合)の活気はそう簡単に衰えないという見方もできるかもしれない。しかしIMFはASEAN5(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)の成長率見通しも5.0%(−0.6ポイント)、5.4%(−0.3ポイント)と下方修正した。中国やインドが減速すれば、ASEANも引きずられるという形である。

 もしアジアのこうした国々の成長率が予想より落ちるということになれば、日本への影響も小さくはない。日本経済の最大の課題は需要をどうつくるかというところにある。政府がしきりに賃上げするよう促しているのもそのためだ。ただ賃上げはそう簡単に実現しない。その間、需要を補うのは輸出ということになるが、膨らむ市場として期待されていたのはアジアだ。そのアジアがつまずけば、アベノミクス効果も薄れてしまう。

ユーロ圏の銀行の健全化調査が始まった

 それにもう一つ大きな問題が残っている。それはユーロ圏だ。IMFの予想ではユーロ圏はそう大きく変わっているわけではない。2013年はマイナス成長だが、2014年には1.0%成長に戻ると見ている。確かにスペインやイタリアなど、赤字の削減が進んできた。しかしこれから問題になるのは、国の債務の話ではない。民間銀行の話だ。

 ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁は、2014年末からECBが監督することになるユーロ圏128主要銀行のバランスシート検査を始めた。これで貸し付けの健全性をチェックし、健全な銀行、資本強化が必要な銀行、舞台から退場すべき銀行を分ける、というのである。

 しかし退場せよという決定は、政治的には難しい。不良債権を表に出して処理するということは、すなわちその貸出先が破たんするということでもある。日本でも、1990年代末ごろ、銀行が金利分を貸し続けることで命を長らえていた企業があった。

 なぜ「ゾンビ企業」に貸し続けるのか。理由は簡単だ。貸し付けを中止すれば、それはすぐ破たんすることになり、そうなれば銀行が損失を処理しなければならなくなるからだ。巨額の債務を処理するには銀行の体力があまりにも弱かった。だからゾンビ企業の処理と銀行の再編がセットで行われたのである。

欧州で不良債権問題が解決できない理由

 もちろん債務を増やしすぎたのは企業だけではない。住宅ローン債務を抱えた個人も同じことである。1990年代の日本ではこうした企業や個人が債務の返済に走り、結果的に需要が落ちて、デフレ状況に陥った。

 ユーロ圏でも同じように、個人が多額の債務を抱えているという問題がある。米国なども同じように個人の過重借入という問題があったが、米国は銀行の不良債権償却が進んで、過重債務の3分の2が処理されたとされている。それに比べて欧州は遅れている。その理由をエコノミスト誌(参照リンク)はこう分析する。

 一つは、緊縮政策で景気が後退した南の「周縁諸国」では、個人の債務返済が困難になった。二つ目は、体力の弱い銀行は、自行の債権の中に不良債権があると認めたがらない。三つ目は、欧州の倒産法は借り手に優しくない。そのためなかなか整理がつかない。

 こういった状況を考える限り、欧州はまだまだ安定したとは言い難い。それに以前からこのコラムでも指摘している根本的な統一通貨の矛盾は、何も解決されていない。トンネルの先に明かりが見えるまでには2014年いっぱいぐらいの時間がかかるかもしれない。

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