土肥:会社を立ち上げる際、なぜ「エージェント」にこだわったのでしょうか。先ほど「私たちは作家側の立場に」という話がありましたが。
佐渡島:作家というのは、時代の空気を読む“カナリア”のような存在。炭鉱内で空気が薄くなったり、ガスが発生したときに、カナリアは人間より先に異変を感じる。つまり、人はカナリアを見て、危険かどうかを判断しなければいけません。作家も炭鉱内のカナリアのように、他人よりも先に社会の空気の変化に気付き、それを描く。
一方の編集者は、作家が「これを描きたい」という要望があれば、原稿をもらって、世に出せる状態にしなければいけません。でも既存の出版社は組織が硬直しているので、“前例主義”に陥っている。なので新しい企画がなかなか通りにくい環境になっているんですよね。
土肥:前例主義? もう少し詳しく聞かせてください。
佐渡島:出版業界だけではなく、テレビ業界も前例主義に陥っているのではないでしょうか。例えば、ドラマを企画する際、漫画をベースにした作品がヒットしたから「またそれで」となる。でも作品をつくることって、前例主義ではダメですよね? これまで見たことがないモノをつくらなければいけないので、企画書に落とし込むことなんてできないんですよ。その作品ができて、初めて説明できる。企画書に書けるモノ……それは前例主義に陥っている証拠でもあるんですよ。
土肥:なるほど。
佐渡島:雑誌の場合でいうと、編集者からこんな要望があります。「ウチの雑誌は小学生向けなので、対決シーンを必ず入れてくださいね」といった感じで。繰り返しになりますが、作家というのは“カナリア”のような存在。雑誌の方針を受け入れて描く……のではなく、作家は描きたいことを描かなければいけません。そのお手伝いができるのは、出版社での編集者ではなく、フリーの編集者でもなく、エージェントという立場だと考えたのです。
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