「一流」になるためには、3つの力が必要勝者のための鉄則55(3/3 ページ)

» 2013年10月28日 08時00分 公開
[張本勲,Business Media 誠]
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宮本慎也は、打撃の素質は「一流半」だが、あくなき努力でカバーした。

 「一流」になれる素質は、誰もが持っている。もし、今あなたが「一流」になりきれていないとしたら、それは本来持っている素質を生かしていないからだ。

 例えば、東京ヤクルトスワローズで活躍し、2013年(平成25)シーズンで引退した宮本慎也を例にとってみよう。オリンピックの日本代表キャプテンを務めたり、2012年(平成24)2000安打を達成したことは記憶に新しい。犠打のシーズン最多記録を作り、通算記録でも歴代3位につけている。しかし、彼はもともとバッターの素質としては2割そこそこの選手。素質的には「一流半」の選手だ。彼が入団して2年目、当時の野村克也監督から「ハリ、これを何とか2割7分、打てるようにしてくれないか。守備は抜群なんだが……」と頼まれたことがある。宮本の1年目の打率は、67試合出場で2割2分。見たら、元巨人の土井正三みたいなタイプで、守備は上手いがバッティングは非力でボールが前に飛ばない。だから、「バットを短く握り、来たボールにぶつけろ。おまえに長打はいらないんだから」と指導したことがある。そうしたら、翌年以降、レギュラーを獲得し、コンスタントに2割7、8分を打ち、ときには3割をマークするようにもなった。

(写真と本文は関係ありません)

 べつに私の指導があったからじゃない。要は本人の努力。「所詮、俺は2割2分の選手、守備だけやっていればいいんだ」と開き直るんじゃなくて、自分自身の素質を最大限生かすように努力する。宮本はとにかく練習が好きで、40歳を超えても人一倍やっていた。「人に教えるのは、自分の勉強にもなるから」と、巨人の坂本勇人と合同練習したりするほど練習の虫。その時はテレビの番組で、巨人のコーチに対して非礼になるから坂本に「喝!」を入れたが、宮本という選手はそれほど努力、努力、あくなき努力を続けてきた。その結果が、6回の3割超え、2000安打につながったのであって、けっして偶然ではない。

 あるいは昔、阪急ブレーブスに高井保弘という選手がいた。彼は足が遅くて、レギュラーに定着できなかったが、代打で活躍し、ファンの人気を得てオールスターにも出場した。最後には代打で通算27本塁打の世界記録まで作った。彼がそこまで活躍できたのは、「俺は足が遅いけれど、バッティングでは絶対に負けない」と徹底的に努力したからだ。「どうせ俺はめちゃくちゃ足が遅いから」と諦めてしまったら、あれだけの記録は絶対に生まれなかった。

 宮本のようにパワーがなかったり、高井のように足が遅かったりというのは、持って生まれたその人の素質だから仕方がない。でも、自分自身の長所と短所を冷静に見きわめ、持っている素質を最大限生かすように努力、研究するのは誰もができることだ。運、不運じゃない。何かが足りないから二軍に甘んじているのであって、だったらその足りない部分を、宮本のようにあくなき努力で補ったり、高井のように別の部分を徹底的に鍛えて技術を身に付け、磨いていけばいい。

 そのための努力や研究を怠らずにしてほしい。「どうせ俺なんか、この程度」――という考えではけっして一軍には上がれない。勉強して、研究して、努力して、自分自身を鍛えて磨いて、みんな「一流」になってほしい。

 私は「一流」なるためには、次の3つの「力」が必要だと考えている。

  1. 自分自身の素質を生かし切るための正しい技術力
  2. その正しい技術を習得するための不断の努力
  3. 努力し続けるための自己管理力

 一般の会社員にたとえるとしたら、プレゼン能力だったりコミュニケーション能力だったり、事務能力や管理能力だったり、ビジネスに必要とされる能力はいろいろあるだろう。

 私がここで強調したいのは、誰もが自分なりの素質を与えられ、この世に生まれてきたのに、その素質を生かし切らなかったらもったいないということだ。そのために有効な努力の仕方、考え方を、プロ野球に関わって半世紀以上の経験や考察からひもといてみたい。

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