金正恩体制下の計画経済はうまく発展できるのか?――北朝鮮の農村を歩く藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2013年10月16日 07時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 取材のため北朝鮮を訪問したところ、同行者から「このところ北朝鮮はずいぶん変わった」という評価をあちこちで聞いた。街を眺めていても、国連安保理決議による経済制裁が行われているのに、制裁に苦しむという感じは見受けられない。平壌から北京に戻る機内で、たまたま隣合わせになった英国人も「変化のスピードが速い」と言う。

 現在、日本政府は国連安保理決議(1695号1718号1874号2087号2094号)に基づいて、北朝鮮に対して武器などの輸出入の禁止、資金凍結、人的往来の禁止といった措置を実施している。さらに日本独自の制裁として北朝鮮籍船の入港禁止、すべての品目の輸出入禁止、北朝鮮籍者の日本への入国原則禁止などの措置も講じている。

30階建ての集合住宅が建設されていた

平壌 平壌

 平壌(ピョンヤン)の市内では、あちこちで建物の建設が行われていた。平壌空港も新しいビルを建設中だが、とりわけ目立ったのは古い住宅を取り壊して新しい集合住宅を建設している風景である。ホテルの部屋から見える平壌市の東半分だけでも5つのクレーンが立っていた。古い集合住宅はエレベータもない5階建てだが、新しい集合住宅は30階建てほどで、もちろんエレベータも設置されている(ちなみに住宅は政府から国民に供給されるが家賃というものは存在しない)。

 しかし新しいものが建設される一方で、古いもののメンテナンスは遅れているように見えた。世界遺産となった開城(ケソン)に行く高速道路。道の表面は凸凹が多い。それにもかかわらず時速80キロほどで走るから、バスの後部は揺れがひどい。この開城に向かう道路は、その先に板門店(パンムンジョム)がある軍用道路。実際、ところどころに中央分離帯がないまっすぐな部分がある。ガイドに聞くと「軍用機の不時着用だ」と教えてくれた。同じようなものは韓国でも台湾でも見たことがあるが、これほど凸凹では不時着すらできないのではないかと、余計なお世話だろうが心配になる。

 住宅も含めて公共工事はおそらくこの国を動かす大事な経済行為なのだろうと思う。個人による商売はあることはあるが、それは極めて限られたものだ。農村を例に取ると、収穫したもののうち、政府に上納するものやコスト(機械の使用料や肥料)、翌年の種などを差し引いたものが共同農場に残る。それを各農家の労働量に応じて配分し、もしそれが余るならば市場で売ってもいい。また農家には自分の家の前に30坪から80坪ぐらいの土地が貸与され、そこは自由に換金作物を植えていいのだそうだ。

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