シリアの化学兵器攻撃は「世紀の大ウソ」なのか!?伊吹太歩の時事日想(4/4 ページ)

» 2013年10月10日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]
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キリスト教の聖職者がアサド政権を支持する理由

 人権団体のヒューマンライツウオッチの職員は英BBCの取材に、ビデオは何ら不自然でないと話している。ゴウタには孤立していた住民が多くいたし、子供は埋葬するのにあちこちに運ばれたと主張した。

 世界各地に諜報網を張り巡らす米国は、きっぱりとアサド政権が化学兵器による攻撃を行った証拠があると言いきっている(その証拠自体が疑わしいという指摘もあるが)。国連も調査によって被害者からサリンの成分が摘出されたと発表しており、化学兵器が何者かの手によって使われたのは間違いない。

 なぜマザー・アグネスはこのような報告書を出したのだろうか? 背景を探っていくと、今のシリアの国内事情が見えてくる。

 シリアは、イスラム教徒(大多数がスンニ派)が国民の90%を占める。意外に思うかもしれないが、マザー・アグネスのようなキリスト教徒も国民の10%ほどいる。

 バシャル・アサド大統領はイスラム教徒では少数派であるシーア派系統のアラウィ派の一門の出身だ。これまでシリアのキリスト教徒は、アラウィ派のアサド大統領のおかげで、国民の大多数を占めるイスラム教スンニ派勢力から守られてきた。ちなみに今シリア国内で勢力を伸ばしているイスラム過激派勢力は、スンニ派に属する。

 仮にアサド政権が失脚して、多数派であるイスラム教スンニ派による国家が誕生すれば、誰もキリスト教徒を守ってはくれず、迫害される可能性もある。マザー・アグネスが反体制派を否定し、今回のようにアサド政権に都合のいい報告書を出す背景には、そうした事情があるとみられる。

 マザー・アグネスの主張も検証される必要があるだろう。だが、存在しない大量破壊兵器を存在すると言ってイラクに侵攻した“前科”がある米国の主張をうのみにするのも危険だ。そう言う意味では、マザー・アグネスの取り組み自体は評価されてもいいのではないだろうか。

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