転職したいと考えている層が、繰り返し調査をしても、だいたいいつも2割くらいいるという数字は、人材業界にいる人たちにとっては珍しい話ではありません。ただ、このスナップショットのようなデータをそのまま受け取ると、大変なことになってしまいます。こう書くとピンと来る人もいるかも知れません。
ある時点を切り出して、転職顕在層が2割いるというと、その数字の大きさに期待しますが、その中身がずっと入れ替わり続けているとは限りません。もうお分かりですね。転職できた人は当然、転職顕在層でなくなります。しかし転職できていない人は、相変わらず転職顕在層です。
ですから、企業は「人が採れないから頑張って求職者にアプローチするぞ」と意気込んでも、結果として「あれ? この人前回も見たぞ、落としたし」という人たちと、接点を持つことになってしまう。新しく顕在化する人の数には限りがありますから、例えば「登録者数50万人!」と銘打った転職サイトがあったとしても、何回か見れば「もう新顔がいない」という結果になってしまうのです。この問題を回避しようと、多くの転職サービスは工夫をしていますが、なかなか難しいのが現状といえるかもしれません。
それなら潜在層と呼ばれる「いますぐ転職したいと考えているわけではないけれど、いいところがあれば転職してもいいと考えている」人たちにアプローチすればいいじゃないか、という声が聞こえてきそうですが、よく考えると、無理だということに気がつくはずです。
想像してみてください。漠然とした不安はあるけど、現状に不満もない人がいるとします。で、その人が「いつかは転職しなきゃ、だけど、まだ今じゃないな」と思っていることを、知る術がどこにもないのです。実際、転職を経験した人ならわかるでしょうが、用意周到に「いつ転職する、絶対に!」と最初から計画していて転職したという人は稀です。ほとんどが「漠然とした状態」から「突然入った転職スイッチ」に背中を押されるように、転職活動を始めるのです。当の本人ですら意識できないのに、それを企業の人事や人材業界の人間が知るのは、困難なことなのです。
転職顕在層の中にいる人たちには、厳しい言い方をしてしまうと「転職するレベルにはない」もしくは「多くの企業が採用したがらない」人たちが含まれます。ただ、企業は転職顕在層にしかアプローチする術がないので、結果として「採用する基準」を求職者たちに合わせない限り、なかなか採用できない。ただ、基準を下げて採用しても、結局現場での戦力にはならないので、また退職してしまって人が足りなくなる、という悪循環になってしまう。
冒頭で、自らの能力に自信のある人なら転職は難しくないと書いたのは、そういう理由からです。できると自信があるなら、その自分のレベルと同じようなレベルの人は転職マーケットにはそれほど出現しません。そして、いったん登場したらそれこそ引く手あまたです(優秀な人が転職マーケットに登場しない理由は別にあるのですが、それは別の機会に書くことにしましょう)。
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