有名アーティストの動画をブログに埋め込んだら使用料を請求されるのか?JASRACに聞いてみた(4/4 ページ)

» 2013年09月27日 07時00分 公開
[山崎潤一郎,Business Media 誠]
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「おめでとう東京」禁止は、知財からの利益を最大化するため!?

 そもそも権利者というのは、保持、管理している権利から得られる利益を最大化するように努力するのが普通だ。歌ってみた系カバー楽曲の拡散で、元歌の認知度が上がると判断すれば、たとえそれがルールから外れた使い方であっても、それを許すこともある。権利者から委託されているJASRACにしても、同様の考え方があってもおかしくない。前述のヴァン・ヘイレンの撮影とアップロードの解禁措置は、権利者として、権利を行使し制限するよりソーシャルメディアでの拡散効果の方がメリットがあると判断したという側面もあるのだろう。

 その逆に、利益が損なわれると判断すれば、締め付けに入るのも権利者だ。筆者の会社で、朝の連続ドラマ『あまちゃん』の挿入歌である「潮騒のメモリー」のウクレレによるカバー曲をiTunes Storeで配信したところ、楽曲を管理する出版社から「商用カバーは禁止」という通達を受け、配信を取り下げた。「潮騒のメモリー」は、JASRACで「録音」や「配信」の許諾を得ることができ、カバー曲であれば問題はないはずだ。制度的に制限をかけたければ、「専属楽曲」として管理するか、「支分権」の仕組みを利用し、他者が録音や配信を行う部分のみを権利者側管理とすることも可能だ。

 だが、権利者が「他曲であれば問題はないのだが……」と前置きしつつ、この曲に限ってカバーを禁じたのは、ドラマ放映中の旬なタイミングにおいては、カバー曲の存在によりオリジナル楽曲から得られる利益が分散し損なわれることを嫌ったのだろう。ちなみに、歌ってみた系の非商用カバーの動画投稿については、「非商用なので問題ない」とのことで、こちらは拡散効果を期待しているわけだ。

 また、これは筆者個人の身に降りかかったことだが、筆者は過去2回にわたりYouTubeの自演動画が「著作権侵害」を理由に削除されている。1回めは、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」で、2回めはキング・クリムゾンの「スターレス」という楽曲の演奏してみた系動画だ。

YouTube 著作権のルールにしたがった投稿を行っても、権利者がダメと言えばダメ。YouTubeには著作権侵害についてのスリーストライク規定があるので、筆者の場合、あと1回権利侵害と判断されると、アカウントが削除されてしまう。まさに「地雷」のようだ。

 2つの楽曲ともにJASRACの管理下にあるので、YouTubeに自演動画を投稿する行為自体はまったく問題はないはずだが、2曲ともに権利者からの申告で削除されてしまった。YouTubeからの通達メールには理由が書かれていないので、何が問題となって権利者がYouTubeに削除を命じたのかは分からないが、何らかの不利益があると判断したのだろう。

 知的財産ビジネスにおいて権利を持つものの立場は強い。その主張は、時としてルールを超越した実効力を伴う。日本オリンピック委員会が、「おめでとう東京」などの便乗ビジネスやその文言に目を光らせるのも、超有名テーマパークが建造物の外観写真の使用に制限をかけるのも、すべては知的財産の付加価値を上げ、権利から得られる利益を最大化せんがための施策だ。もし、私が権利者であれば、今このタイミングにおいて、「倍返しだ」や「じぇじぇじぇ」といった台詞の商業利用にも制限をかけるだろう。

 ことほどさように他人の知的財産を利用するというのは、ややこしくて面倒なことだらけだ。YouTubeやニコ動の動画の二次利用はその身近な例といえる。メディアがどのような形に変容しようとも、権利者というのは、さじ加減を見ながら「制限」と「許諾」を使い分け、利益の最大化を目指しているのだ。

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