なぜワーナー・ブラザースは“邦画”を作るのか? 最新作は渡辺謙主演の時代劇だそれ、ちょっと気になる!(3/3 ページ)

» 2013年09月26日 15時00分 公開
[岡田大助,Business Media 誠]
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なぜ、ワーナー日本法人が邦画で成功しているのか?

許されざる者 (C)2013 Warner Entertainment Japan Inc.

 ワーナー日本法人以外のハリウッドメジャーもローカル プロダクション戦略を取っている。だが、実際のところはワーナー日本法人の一人勝ち状態。邦画で成功している秘訣(ひけつ)は何なのだろうか?

 「それは宣伝だと思います。配給会社である以上、『宣伝で当てる』ということがとても大事。監督や役者さんなどが良い映画を作っても、宣伝がヘタでお客さんにぜんぜん見てもらえないとなると、次から企画が来なくなりますからね。でも邦画と洋画では同じ『宣伝』といってもまったく違うんです」

 洋画の場合、予告ムービーやポスターなどの宣伝材料(宣材)は本国ですでに用意されている。だから、どれを使う、使わないという判断はあっても、基本的にコストは少なくて済む。だが、邦画の場合、写真1枚にしても自前で制作しなければならない。宣伝戦略のコンセプトを明確に決め、それをスタッフやキャストに説明し、時間もコストもかけて取り組む必要があるのだ。

 「日本テレビさんとの『デスノート』から始めて、宣伝ではいろいろと苦労しましたよ。ほかの映画でもハプニングはありました。でも経験を積んだことで邦画の宣伝に自信がついた。宣伝ノウハウに対して投資したという感じです」

 また、『許されざる者』の場合、6月ごろからアイアトン社長と李監督は地方の劇場に直接出向いて興行に向けたプレゼンテーションをするという異例のキャンペーンを展開している。

 「『予告編をたくさんかけてくださいね』とか、『宣材グッズをたくさん置いてくださいね』とか、支配人さんにお願いして回ったり、地方テレビ局で監督のインタビューを取り上げてもらったりといった活動をしました。劇場からは『じゃあ、Tシャツを作ってください』とオーダーされましたので、今ごろは『マン・オブ・スティール』のTシャツを脱いで、『許されざる者』に着替えているかも(笑)」

 それと同時に、映画館で働く若いスタッフの意見も聞いて回った。アカデミー作品賞を取った『Unforgiven』とはいえ、20年前の作品であり、当時の配給収入は4億円程度(興行収入に直すと8億円程度)で大ヒットとはいえない映画だ。彼らは『許されざる者』を「大作感の感じられる邦画」と認識しているものの、「原作」の威光が通じないどころか、その存在すら知らないということが分かった。

許されざる者許されざる者 (C)2013 Warner Entertainment Japan Inc.

 アイアトン社長は、「邦画を売るとは、まだ見ぬ映画の楽しさをいかに伝えられるのかということです。見た後に『楽しかったでしょ?』と感想を言い合うのとは難易度が違います。今回は李監督の口から直接出てきた言葉にたくさんのヒントがありましたので、それを勉強させてもらいました」という。

 「この業界に入って25年、いまでも邦画というのはハラハラドキドキしますね。当たったら大きいのですが、外れたら全額が跳ね返ってきます。洋画配給の場合は、それはハリウッドが支払うわけですから全然違います。でも製作するとなると何が起こるか分からない。今のところ、大きな事件はなかったと思いますが、いろいろな人に聞くと『いや、いろいろあったでしょ?』と。邦画製作ってホラー映画みたいなものですよ……」

 最後にこれからのローカル プロダクション戦略について尋ねた。現時点で、2014年は22本の映画が予定に入っているという。そのうち12本が邦画で、10本が洋画。つまり、来年は初めて邦画の本数が洋画よりも多くなるのだそうだ。この中には前作が大ヒットとなった『るろうに剣心』の続編(前後編の2本)や、日本テレビとの共同製作の『MONSTER(仮)』などが含まれている。

 「2013年は、『許されざる者』が大ヒットとなれば、ついに邦画で興行収入100億円の大台を突破できる可能性が出てきました。10月にはアニメ映画の『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』も控えていますし、松本人志監督の『R100』も期待できます」

 ちなみに「アイアトン社長のイチオシは?」と聞くと、黒人メジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンを描いた洋画『42 〜世界を変えた男〜』だとか。「もちろん全部の映画を応援していますけれども、特に11月1日公開の『42』は映画らしい映画なのです。感動ドラマですよ」

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