ローカル線の救世主になるのか――道路と線路を走るDMVの課題と未来杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)

» 2013年09月06日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。


 JR北海道は2004年に画期的な車両を開発した。小型バスを改造し、道路走行用のタイヤと線路走行用の車輪を備えた。道路と線路、両方とも走行可能なことから「デュアル・モード・ビークル(DMV)」と呼ばれている。鉄道のメリットとバスのメリットを兼ね備え、鉄道車両より安価に製造できるから、「ローカル鉄道の救世主」との期待が寄せられている。

 しかし、実用化は進んでいない。JR北海道は2007年と2008年に「試験営業」をした後、営業運転を実施していない。。鉄道イベントのひとつとして、苗穂工場の一般公開日にデモ走行する程度の扱いになっている。それにもかかわらず、全国のローカル鉄道から導入構想が浮上し、実際に車両を借り受けて試験運転までしたところもある。が、やっぱりその後は動きがない。

 導入構想を掲げた鉄道の中には、兵庫県の三木鉄道や宮崎県の高千穂鉄道のように、DMVへの願いも虚しく廃止された路線もある。その他、DMVに手を挙げた路線を眺めると、すべてとは言わないが、再生への万策が尽きて、なにか新しい方針を打ち出す必要に迫られ、苦し紛れにDMVを持ちだしたような事例もある。そもそも、開発元が実用化せず、わずかな実績しかない技術である。経営不振の鉄道会社が導入するにはリスクが大きすぎる。

 そんな中、山形県の山形鉄道フラワー長井線と、JR東日本の左沢線(あてらざわせん)を結ぶDMVの構想が立ち上がった(参照リンク)。2つの路線の終着駅を結ぶ道路を直通し、山形駅を含む半環状線を形成しようというプランだ。魅力的ではあるが、そのルートなら乗り継ぎバスを走らせるだけでもよさそうだ。しかも現在は両駅を結ぶバス路線は設定されておらず、潜在的な需要も不透明。鉄道と道路が直通すれば需要が生まれるだろうか。

 DMVに関しては、開発元が実用化していない技術について、各地の自治体が導入のための調査費を計上するという、なんとも妙な話ばかりだ。

山形鉄道フラワー長井線とJR東日本左沢線の位置(Google Mapsを基に作成)
山形鉄道フラワー長井線の終点、荒砥駅(左)、JR東日本の左沢線の終点、左沢駅(右)

       1|2|3|4|5 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.