「キュレーションで効率的に情報収集」の落とし穴――池上彰×吉岡綾乃(前編)リニューアル記念企画「これからの働き方、新時代のリーダー」(2/4 ページ)

» 2013年09月02日 01時00分 公開
[嶺竜一,Business Media 誠]
池上彰(いけがみ・あきら)。ジャーナリスト。1950年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。社会部記者として経験を積んだ後、報道局記者主幹に。1994年4月から11年間「週刊こどもニュース」のお父さん役として、様々なニュースを解説。2005年3月NHKを退局、フリージャーナリストとして、テレビ、新聞、雑誌、書籍など幅広いメディアで活躍中

池上: 最近そういう人がとても増えているんですが、私は情報源がネットだけだと、関心や知識が広がっていかないと思うんですね。インターネットだと自分の関心のある物事については自分から調べますし、こちらが関心があるであろう情報を向こうからも送ってくれますね。あるいはTwitterでも知り合いやフォローしている人はある種、感性が似ていたり趣味が同じだったりしますよね。そういう人の中で、「これニュースだよ」「ああそうなんだ」という情報収集の仕方って、結局は自分と似た興味関心を持っている人の情報ばかりが自分の中に入ってくるわけですよね。そうなると幅が広がっていかないんですね。もし吉岡さんが中東情勢に興味がなかったら、「イラクでまたテロが」っていう情報はSNSではなかなか入って来ないでしょ。

 だけど新聞を広げるとね、自分が興味関心の無いことも向こうから飛び込んで来る。そこから興味関心が広がっていくんですよ。こんなことがあったのか、少し調べてみようって。でも今は国際面のトップに書かれていることでもみんな知らないから、僕がテレビで解説すると、「へー、知らなかった」ってみんな驚くんです。

吉岡: なるほど。確かに私の周りでも、SNSで国際ネタを話題にする人は少ないです。ネットは情報を深く知ろうとするのには良い半面、どうしても自分が面白いと思う情報に偏りがちかもしれません。池上さんはやはり、情報収集は新聞がベースなんでしょうか。

池上: 新聞がベースです。もちろんネットも見ますが、SNSはやっていません。津田大介さんが、Twitterをやれやれってうるさいんですけど(笑)。

 でもそんな今だから、新聞って貴重ですよ。だって30代、40代のビジネスマンは、同僚も部下もたぶんネットでしか情報を集めていない。だから今は、新聞を読んでいるだけ強みになると思うんですよね。

吉岡: 確かに一昔前まではみんな新聞を読むのが当たり前で、新聞に書かれている情報を話題にしていましたが、今は新聞を毎日読んでいるだけで差がつけられる時代かもしれませんね。

池上: そうなんですよ。新聞をネットで読んでいる人もね、例えば日経新聞の電子版はレイヤーがとても複雑になっているから、興味のある記事を読んでいると、そこから関連して同じ分野のニュースばかり読んでしまうでしょ。サービスの記事を読んでいて、金融はどうなっている、世界情勢はどうなっている、という情報は、自分から意識して探していかないと出てこないでしょ。でも紙の新聞は意識しなくても目に入る。

吉岡: 確かにネットはそうですね。Business Media 誠でも、どうしても多くの人が興味があるネタばかり読まれる傾向があります。紙の新聞と違って、ネットメディアだとどの記事がどれだけ読まれているかという数字がはっきり出てしまうので。これがなかなかキツいのですが……。

池上: そうですよね。逆に新聞って、みんな習慣で読んでいるから、どんな記事を載せてもみんな読んでいるだろうって新聞社側が勝手に思っているところがあって、そのぶん自由かもしれない。実際には、読まれない記事もたくさんあるんだけど。

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