鉄道業界に個人情報を任せられるのか杉山淳一の時事日想(2/6 ページ)

» 2013年08月30日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

「自分が関わったデータ」に過敏な人たち

 ここまで対策をしても、利用者に「自分のデータを売られたようで気持ち悪い」と思わせてしまった。これはもう理屈ではなく感情であり、JR東日本として予想外の反応だろう。その部分で、いわれなき批判を受けたJR東日本は気の毒である。しかし、消費者の心理を見誤った結果とも言える。

 個人情報保護法の制定後も情報漏えい事件があったので、消費者のなかには「自分が関わるデータ」に過敏な人々が多い。個人情報ではないデータであっても「自分が関わったデータ」を勝手に使われたくないのだ。

 そもそもSuicaのIDを使って、第三者が利用者を特定しようと思うだろうか。極端な例を出すと、殺人事件の現場にSuicaが落ちていたら、遺留品として警察が情報の開示を要求し、裁判所が礼状を発行するかもしれない。それほど特異な案件でもない限り、鉄道会社の内部処理以外でSuicaのIDなんて使わない。利用者にとっては「控えておけば落とした時に本人と証明できて便利です」という程度の番号だ。4000万以上という膨大なSuicaのIDから、個人を特定する意味はない。

 8月5日の発表によると、交通系IC乗車券の電子マネーとしての利用件数、つまりお買い物の利用が月間1億件を突破したという(参照リンク)。買い物だけで1億件だから、本来の移動系の利用件数はもっと多い。そんな膨大な利用データの中から個人を特定する理由が見つからない。第一にめんどくさい。第二に処理上のリスクが大きすぎる。サーバーが膨大な決済処理をしている中で「ひとつひとつのIDを検索して、個人を特定する処理を割りこませる」なんてナンセンス。サーバーに余計な負荷をかけるだけだ。これは、データ通信系の仕事に携わったり、ITに関する知識を持ち合わせていれば常識だろう。

日立が情報商品として提供するデータのサンプル。個人情報にはとうていたどりつけない(出典:日立製作所)

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