なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか公認会計士まーやんの「ロジカるつぼ」(前編)(1/2 ページ)

» 2013年08月12日 10時00分 公開
[眞山徳人,Business Media 誠]
誠ブログ

 アベノミクスの効果で、景気が上向いているという報道が増えてきていますね。しかし、本当に景気が良くなったということを、生活の中で実感できる機会はほとんどありません。円安や原材料高騰をはじめとした値上げ圧力で、むしろ生活は苦しくなっているような気がする、という人も多いはずです。端的に言うと「景気は良くなったというが、給料増えてないぞ?」というのが、普通の感覚だと思います。

 そんな中、労働調査会より『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか』という本が、7月30日に発売されました。景気と給料の関係は、表面的には経済学の範疇(はんちゅう)で扱うものですが、今回この本を書いているのは3人の弁護士です。労働法が私たちの給料、あるいは雇用を硬直化させたり、さまざまな「ひずみ」が生じていることを分かりやすく説明してくれている本です。

 いつもどおり書評を書こうとも思いましたが、これだけホットなテーマを扱った本ですから、「ただ書評にしてももったいないなぁ」ということで、思い切って著者代表で弁護士の倉重公太朗氏にインタビューしてきました。

法律は常に正しいのか

弁護士の倉重公太朗氏

眞山:今回、執筆にいたった経緯を教えてください。

倉重:私たちは労働法を専門とした弁護士として、企業の依頼を受けて裁判の案件、あるいは裁判にいたらないまでも、企業内で生じる案件を多く取り扱っています。

 当然労働法に照らして正しい処遇ができるように力を尽くしているわけですが、そのような案件に携わっていると、疑問を感じざるを得ない場面にしばしば出くわします。例えば、定時まで一生懸命仕事をして、きっちりと帰宅できる優秀な社員には残業代が出ず、パソコンの「ソリティア」に精を出して夕方から夜遅くまでダラダラ残業している人には残業代を出さざるを得ないケースもあります。

 なぜこんなことが起こるのか。それはやはり、労働法そのものに問題があるのではないか? そういう思いで執筆に至ったわけです。

眞山:本書は労働法を専門分野としている3人の弁護士の共著になっていますが、皆さん同じようなご意見のもとに本を書かれたのですか?

倉重:3人とも使用者(企業)側の弁護士ですが、この本に関しては「企業だけのためではなく、広く社会のためという観点からみた労働法の将来像を書こう」という思いで集まりました。もちろん細かい部分で、制度のあるべき姿についてははじめから同じ意見を持っていたわけではなく、ときにはかなりの激論をしました。また3人で議論を交わしただけではなく、行政の担当者や労働組合の人などへの聞き込みも行いました。その過程を経て、3人の意見はよりよい形にまとまったという手ごたえはあります。

眞山:なるほど。企業のためではなく広く社会のため、というのは素晴らしい意気込みだと思いますが、そもそも「社会のあるべき姿」としてはどのような像を描いたのでしょうか?

倉重:大きく2つのポイントがあります。1つめは「頑張っている人が正当に評価されて、賃金や待遇に反映されること」です。2つめは「退職、転職を気軽にできる社会」。ハッキリ言うなら「イヤなら辞める」という判断がしやすい社会にしたいと思っています。

 特に2つめについて、現状の法体系では、むしろ転職のチャンスを奪っていると言えます。採用された会社に入ってみて、定年まで幸せという人も中にはいますが、これからは多数派ではなくなってきます。大半の人は、同じ会社にいるとしたら嫌々ながら働くことになるのだろうと思います。

 自分のキャリアを考えたときに、そこが思い通りの会社、あるいは思い通りの部署ではない場合には、転職を繰り返して天職にたどり着くというのがあるべき姿なのではないか、ということです。

眞山:倉重さんは海外の法体系にも詳しいそうですが、日本とはどのように異なっているのでしょうか?

倉重:実際に韓国やタイに調査に行ったり、欧米の労働法の研究もしています。米国は非常にシンプルで、人種差別などの極端な例を除いては、解雇が原則自由です。フランス、ドイツなどでは程度の差こそあれ、解雇の金銭的解決を可能にしていて、その制度は東南アジアでも普及しています。

 日本の裁判では、和解に落ち着かなければ「解雇が有効か無効か」を争うことしかできないため、例えば裁判で10年争った後に労働者側が勝訴して復職する、ということが起こり得ます。こういうことがあるから、事実上日本の企業は解雇をしづらくなっていくのです。

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