満席のはずが乗客なし! 今日も“幽霊”が列車に乗っている杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)

» 2013年08月09日 08時06分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

「リゾートみのり」1番列車事件

 指定券は完売、ただし列車のお客さんがほとんどいない。そんな極端な事例が山形県の新庄駅で起きた。2008年10月1日。この日から始まる観光キャンペーンに合わせて、JR東日本が観光列車「リゾートみのり」の運行を始めた。その1番列車の到着に合わせて、新庄駅では大歓迎の準備をしていた。

 JR東日本によると指定券は完売。ホームでは地元の有志の舞踊家グループが演じ始め、市役所や観光協会などの来賓も多数。ところが、実際に乗った客はほとんどいなかった。肩透かしを食らった形である。この時に出迎えた人々は、がっかりしたことだろう。列車の指定券は完売。乗客はなし。では、乗客はどこに行ったのか。

 報道によると、2つの原因があったようだ。ひとつは「鉄道ファンがコレクション目的で指定券を買って、実際には乗らなかった」。もうひとつは「同日に運転されたSL列車を見物するために、途中の駅でほとんどの客が降りてしまった」である。

 前者の理由はちょっと考えにくい。廃止される列車ならともかく、今後も運行する列車で、指定券は全国の窓口で買える「プリンターで印刷する」タイプ。1番列車という希少価値はあるだろうけれど、それほど価値があるだろうか。もっとも、コレクターの心理は収集品に興味がない人からは理解できない部分もある。「1番列車の指定券が510円」といえば、コレクターにとっては安い買い物かもしれない。

 後者の理由はまだ理解できる。「リゾートみのり」に実際に乗った人々のうち、鉄道ファンのほとんどが途中の駅で引き返し、同じ日に運行されるSL列車に向かってしまった。この行動は、一般の客から見れば不可解だけど、鉄道ファンとしては自然な成り行きといえる。

 ただし、どちらの場合も、仮に指定席券が1000円だったらどうだったか。コレクションをちゅうちょする人が増えたかもしれないし、せっかく1000円も払ったら、終点まで乗ろうとした人も増えただろう。

 いずれにしても、この日の「リゾートみのり」は不幸だった。観光客に指定券が渡らず、個々の鉄道ファンが事実上買い占めてしまった。もし鉄道ファンばかり新庄まで乗ったとしても、宿に泊まらず、駅から離れず引き返したかもしれない。観光収入は期待できなかっただろう。

 この一件があってからか、JR東日本では珍しい観光列車を運行する場合、座席の何割かをパッケージツアー「びゅう」に割り当てる傾向があるようだ。

JR東日本が2008年にデビューさせた「リゾートみのり」。上野駅の撮影会にて
「リゾートみのり」は普通列車用のディーゼルカーをリフォームした。3両編成で定員は104名

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