なぜ審判に大金を払うのか――サッカー界の裏事情を分析してみた公認会計士まーやんの「ロジカるつぼ」(後編)(1/2 ページ)

» 2013年07月29日 08時00分 公開
[眞山徳人,Business Media 誠]
誠ブログ

 まずは、前回の記事のまとめから。ポイントとなるのは以下の3つです。

  • サッカー界の八百長は2008年から2011年までに680試合も見つかっている
  • 八百長は多くの場合審判の買収により行われる
  • 審判が八百長に加担する背景には「不正のトライアングル」がある

 また、審判の買収については、こういう記載をしました。

 多くの場合、審判は「1試合あたり12万円」という形で報酬を受け取っています。12万円というのはJ1リーグの主審の場合ですが、そもそも年間での試合数が限られている中でこの報酬水準は決して高いものとは言えません。日本ですらこうなので、他の国ではもっと過酷な条件下におかれているかと思われます。

 そんな審判に対して「ホームに勝たせるように工夫して欲しい」と、100万円程度の報酬で働きかけたら、なびいてしまうこともあるでしょう。

 が、しかしここで、なぜ大金を出してまで審判を買収するのか? ということを考えなくてはいけません。単にチームを勝たせたいという意識で、オーナーやスポンサーが大金を出しているのか?……そういうこともあるかもしれませんが、実はほとんどの八百長は、ある犯罪組織が取り仕切っているようです。その犯罪組織の根城は、ICPO(国際刑事警察機構)によるとシンガポールにあるのだとか。

「不正のトライアングル」とその対応策

 ここで、彼らの「不正のトライアングル」とその対応策を、分析してみることにしましょう。

(1)動機・プレッシャー

 普通に暮らしているとあまり意識することはありませんが、実はサッカーの試合をネタに賭博を行う違法な組織が存在します。その胴元(どうもと)として、上に書いた犯罪組織が鎮座しているというわけです。

 サッカー賭博のサイトを通じて賭け金が集まってきます。詳細は分かりませんが、スコアや勝敗の予想をしてそこに賭けるのです。つぎ込まれたお金を原資に賭けが当たった人に分配をするわけですが、例えば実力差の離れているチーム同士の試合であれば、ほとんどの人が強いチームに賭けることになりますから、胴元としては分配原資が足りずに赤字になってしまうことが考えられます。

 そこで、審判を買収して引き分けにしたり得失点差を操作することで、収益を確保するわけです。

※胴元(どうもと)=さいころばくちの親。また、ばくちの場所を貸して、寺銭をとる者。

(2)機会

 このような不正が可能になっている「機会」の要素はいろいろとあります。インターネット上で賭博が可能な技術的環境も含まれますし、審判に直接接触して取引を持ちかけることができるような状況も、不正を助長する機会と言えます。さらには、前回触れたように、審判が不正に携わってしまうような苛酷な労働環境も、不正に拍車をかけているようです。

(3)正当化

 世界中で愛されているスポーツ、サッカー。八百長でなくとも、サッカー界はもともと巨額のマネーが動きやすい環境にあります。一流選手の年俸やスポンサー収入、グッズの販売収入に放映権など。「甘い汁をすすっているやつがこんなにいるんだから、俺たちも巻き上げてやろうじゃないか」……犯罪組織はこういうねじ曲がった信義を通すことで、組織立った不正行為を行うための指揮命令系統を整えていきます。

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