なぜ日本のプロレスはつまらなくなったのか?臼北信行のスポーツ裏ネタ通信(1/4 ページ)

» 2013年07月25日 08時00分 公開
[臼北信行,Business Media 誠]

著者プロフィール:臼北信行

日本のプロ野球や米メジャーリーグを中心としたスポーツ界の裏ネタ取材を得意とするライター。WBCや五輪、サッカーW杯など数々の国際大会での取材経験も豊富。


WRESTLE-1 WRESTLE-1の告知

 日本のプロレス界が、またしても風雲急を告げそうな状況だ。全日本プロレスを離脱した武藤敬司が、新団体「WRESTLE-1(W-1)」を旗揚げすることを正式に発表。2013年9月8日に東京ドームシティホールで旗揚げ戦が行われる予定で、新団体と武藤の動向に注目が集まっている。

 これまで武藤はプロレスラーとしてリング上のメインイベンターを務めるだけでなく、取締役会長として経営のトップにも君臨していた。11年もの間、全日プロの屋台骨を支えてきたわけだが、2013年2月にオーナーに就任した白石伸生氏との方向性の違いが表面化。以来、老舗団体の分裂が取り沙汰されていた。

 結局、武藤は弁護士を通じて全日プロの全株式を親会社「スピードパートナーズ」から買い戻そうと試みたものの不調に終わり、独立を決意した。他の主力レスラーである船木誠勝やカズ・ハヤシら10選手も武藤に追随し、全日プロを退団。その大半の選手たちが新団体に合流する見通しとなっている。後味の悪さが残る全日プロの分裂騒動。一体、何が引き金となったのか。

プロレス界のタブーに踏み込んだ新オーナー

 そもそも武藤を筆頭とした看板選手たちの大量離脱は、前記したように白石オーナーとの確執が要因だ。振り返ってみよう。白石オーナーは3月8日、自らの運営するスピードパートナーズが全日プロの買収に成功すると、Facebook上でこう述べた。

 「もう一度、ヤラセの無い力と力、心と心、技と技の限界値を極限まで追求するプロレス団体を再構築しようと思います」

 この「ヤラセ」という言葉が、所属レスラーだけでなくプロレス界全体に大波紋を呼んでしまった。その後もエンターテインメント路線に傾倒しがちな選手のリストラを示唆するなど、その姿勢を頑として曲げなかった。こうした新オーナーの方針に「明るく楽しく、激しいプロレス」を全日プロのキャッチコピーとしていた武藤が反発し、他のレスラーを引き連れての離脱に至ったのである。

 「プロレスにとって『ヤラセ』はアンタッチャブル。『プロレスがヤラセか否か』と問われて『ヤラセじゃない』と答えられるわけがない。でも正直、そこには触れてほしくはなかった。全レスラーが試合で真剣勝負をしたら、それはプロレスじゃなくなってしまう」とは武藤ら離脱組を支持する業界関係者のコメントだ。

 「何とか業界を立て直したいと願う白石さんの熱い気持ちも分かりますが……。あの『ヤラセ』うんぬんに関する発言を口にしてしまったのは、業界全体にとっては決してプラスではなかったと思う。せっかく『総合の呪縛』を振り払って、最近ようやく立ち直ってきたというのに。またパンドラの箱を開けられてしまった感じだ」(前出の関係者)

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