なぜ、エジプトの大統領はクーデターで解任されたのか?新連載・イスラム世界を知る(2/3 ページ)

» 2013年07月12日 12時00分 公開
[宮田律,Business Media 誠]

大統領支持者を軍が射殺する事件も――今も混乱が続くエジプト

 モルシ前大統領解任後、エジプトでは国内の混乱が続いている。7月6日、シナイ半島でガス・パイプラインが爆破された。シナイ半島を拠点とする武装集団は、エジプト軍によるモルシ解任に強く反発している。同じ日、シナイ半島では、キリスト教の一宗派であるコプト教の聖職者も殺害されたが、この半島では「アルカイダ」のシンボルである黒い旗を振る集団も現れ、5日には5人のエジプト軍兵士たちが銃殺された。

 モルシ前大統領を解任したエジプトの軍部は、ムスリム同胞団の第8代目最高指導者であるムハンマド・バディーウ(2010年1月16日から務めている)を7月4日に北部のマルサ・マトルーフの町で逮捕して、カイロまでヘリコプターで連行した。軍部にはバディーウにモルシ前大統領の解任を認めさせようとする意図があった。

カイロ・ナイル川

 軍隊はバディーウを7月5日朝に解放したが、彼はその後カイロのラビーヤ・アル・アダウィーヤ・モスクでモルシ支持の人々の前で演説を行った。ムスリム同胞団員たちに街頭に留まって軍に対する抵抗活動を行い、モルシ氏の大統領復帰の活動をするように呼びかけたのだ。

 このバディーウの呼びかけに応じてムスリム同胞団員たちは、モルシ前大統領が軟禁状態に置かれているカイロの共和国防衛隊の兵舎の敷地内に侵入。これに対して軍の兵士たちが発砲し、3人が亡くなった。数万人とも見積もられる多数のムスリム同胞団員たちはカイロのラビーヤ・アル・アダウィーヤ・モスクの前で抗議の声を上げ続けたが、さらに7月8日に同じ場所でモルシ支持派の50人以上が射殺され、およそ300人が負傷するという痛ましい事件が発生した。

 共和国防衛隊兵舎付近での発砲事件については、モルシ支持勢力も、エジプト軍も「先に銃撃してきたのは相手である」と主張しているが、事件の経緯を正確に判断するのは難しい。軍隊は「テロリストの攻撃があった」と訴え、一人の将校が亡くなり、40人の兵士が負傷したことを強調している。

 他方、モルシ大統領を支持するムスリム同胞団は、モルシ支持派の人々が兵舎近くで平和的に礼拝を行っていたら、軍がいきなり発砲してきたという。軍隊の「テロリスト」という言葉は内外に発砲を正当化するための表現のように聞こえるし、またムスリム同胞団の平和的デモに唐突に軍隊が発砲したというのも、にわかに信じがたい。いずれにせよ、犠牲者の数からして、軍隊が必要以上に罪のない人々を殺害したことは間違いない。

 数年前にムスリム同胞団と袂をわかった穏健な政治家のアブデル・モネイム・アブール・ファトゥーフもこの事件を受けて、就任したばかりのマンスール暫定大統領の辞任を要求した。厳格なイスラム主義を標榜する「光の党」は、暫定政権との対話から撤退することを表明した。「光の党」はエルバラダイ元IAEA事務局長の暫定副大統領の就任にも、彼があまりに世俗的だとして反対を唱えてきた。

光の党指導者(左)と宮田律氏

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