国道と鉄道の関門トンネルの老朽化については、決して放置されたわけではなかった。1980年代後半から地元自治体や財界で新ルートの建設構想の声が上がり、1991年には山口県、福岡県、下関市、北九州市などが関門海峡道路整備促進期成同盟会を設立している。これを受けて、政府は1998年に新道路整備計画五箇年計画を策定。関門海峡のほか、東京湾口道路、伊勢湾口道路、紀淡連絡道路、豊予海峡道路、島原・天草・長島架橋の構想を進めるとした。
しかし2008年の自民党福田内閣時代に公共事業の見直しが行われ、これらの構想は白紙撤回となってしまった。関門海峡道路は実績がありつつも老朽化した道路の付け替えに対し、他の道路は新規建設である。それを一緒くたにされてしまった。当時の決定には疑問が残るし、残された古いトンネルの将来を案じて不安になったことだろう。
6月23日の産経新聞Web版によると(参照リンク)、山口県は今年度予算に3000万円の調査費を計上したという。山口県知事は関門海峡道路推進を公約として当選している。これを受けて、福岡県知事、北九州市長、地元財界も政府への働きかけを活発にしている。アベノミクスの3本の矢には、大規模な公共投資が掲げられている。安倍政権が堅持した道路5か年計画を福田内閣がほごにしたという経緯もある。民主党政権の事業仕分けで冷えきった国内経済の活発化のためにも、本州と九州の結びつきは強固にしなくてはいけない。
かつて構想された関門海峡道路は、現在の関門トンネルがある壇ノ浦―和布刈(めかり)ではなく、もっと西側の彦島福浦―小倉で計画されているという。高速道路と国道と鉄道を通す計画で、高速道路は北九州都市高速道路の日明IC付近で接続する。前出の産経新聞によると、関門橋と同じく吊り橋にする場合は2000億円。トンネル方式は1千数百億円とのこと。
トンネルのほうが安いとは驚きだ。実は、新関門ルートで検討されているトンネルは、地下鉄や青函トンネルなどで採用されているシールド工法(シールドで地山の崩壊を防ぎながら、掘削、推進を行い、トンネルを構築する方法)ではなく、あらかじめ組み上げたトンネル躯体(くたい)を沈めて連結し、水を抜いて作る沈埋工法だ。同様の工法は首都高速湾岸線などで実績がある。関門海峡の西隣の洞海湾でも、戸畑と若戸を結ぶトンネルが沈埋工法で作られた。
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