中国経済にちらつく第2の“リーマンショック”の影藤田正美の時事日想(2/2 ページ)

» 2013年07月03日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]
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 この構造がちょうど5年前のサブプライムローンに端を発したリーマンショックと同じだと警告する向きもある。低所得者に住宅を買わせ、そのサブプライムローンを金融商品に加工して投資家や金融機関に売った。住宅が値上がりしているうちは問題にならなかったが、住宅価格が下がるとローンが焦げ付き、高利回りの金融商品が不良債権に変わった。

 この不良債権を保有していた銀行は、短期金融市場で資金調達をすることができず、短期金利は急上昇した。中央銀行の介入で急場をしのいだものの、銀行がこの不良債権を処理するのに長い時間を必要とした(いまだに処理し切れていない金融機関もある)。このリーマンショックを背景に、世界経済の信用が急激に収縮し、結果的に実体経済も大打撃を受けた。

 中国の銀行業監督管理委員会は、理財商品の残高が3月末で約130兆円であることを明らかにした。報道によれば同委員会の尚福林主席は、リスクは十分管理可能としている。だが実際に損失が発生した場合、誰が損失を被るのかはっきりしていない。開発事業に失敗した地方政府なのか、それとも理財商品を販売した銀行なのか、それともそれを買った投資家なのか。そして誰が被るにせよ、その損失額は背筋が寒くなるような数字である。

 中国の新政権は、当局の目が行き届かないままに急膨張してきた「信用バブル」を何とか抑え込もうとしているようだ。ただハードランディングさせると、それでなくても脆弱(ぜいじゃく)な地方のインフラ整備が頓挫(とんざ)し、その損失によって急激に信用が縮小する可能性がある。そうなればまさにリーマンショックの再来だ。しかしソフトランディングさせるには、銀行の財務体質の強化を図りつつ、地方政府の隠れ債務を整理する必要がある。つまり理財商品や銀行の簿外債務・債権を明らかにしなければならないが、予想以上に大きいと外国の投資家は一斉に手を引くかもしれない。

 もし中国経済がこの問題で一時的であれ停滞することになると、アベノミクス効果はたちまち打ちのめされるだろう。これまでは「期待だけで」、これからようやく「成長戦略」によって実体経済の回復が始まるかどうかというところだからだ。いま企業は「中国プラスワン」として中国リスクを避けるような手を打ってはいるが、中国経済そのものに急ブレーキがかかったら、たとえASEANなどに「多様化」していても、日本企業が受ける打撃はあまりにも大きい。

 米国の著名な空売り投資家ジム・チェイノス氏は「どこかの時点で中国の信用バブルが崩壊に向かうリスクがあり、今後18カ月の間に何が起きるか注視している」と、日経紙上で語った。空売り専門家の悲観論だから、その分は割り引かなければならないかもしれないが、気になる発言である。中国経済の方向次第では、安倍首相の人気も任期も左右されかねない。

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