10年後に150万円所得増は実現できる!?――成長戦略に見る政府の方針世の中の動きの個人資産への影響を考えてみる(2/3 ページ)

» 2013年06月26日 08時00分 公開
[川瀬太志,Business Media 誠]
誠ブログ

1人あたりのGNIってどんな指標?

 この発表を聞いて「えー! 所得が150万円も増えるの? ホンマかいな」と思った人も多かったのではないでしょうか。
 はい、結論から言うと増えません。150万円増やすと言っているのは「1人あたりのGNI」のことです。

 GNIとは、国民だけでなく企業も含めて日本全体が国内と国外で稼いだ所得の合計のことです。

 よく経済指標で使われるGDPに、企業や個人が海外投資によって得られた利子や配当などを加えた指標のことです。そのGNIをすべての日本の人口で割ったものが、1人あたりのGNIとなるのです。働いている人の給料所得とはまったく違いますね。

10年で150万円増を計算してみると……

 ではちょっと計算してみましょう。日本の平成24年度のGNIは約490兆円、1人あたりにすると384万5000円だそうです。これを150万円増やすのですから、10年後には534万5千円にしないといけません。

 ここで「1人あたり」を計算します。

 国立人口問題研究所の予測によると、10年後の平成35年の人口は中位予測で468万人ほど減少して、1億2281万人になります。そうなると平成34年時点での必要なGNIの総額は、

「1人あたり534万5千円×1億2281万人=約656兆円」

になります。10年間で490兆円を656兆円にするということは……、計算すると年率換算で2.96%の成長率ということになります。

 これは「GNIの名目成長率」ですから、ここからインフレ率を引きます。

 アベノミクスでは金融政策によってここ2年くらいで「インフレ率2%」を目指しています。10年間ずっと2%のインフレというのはさすがに無理でしょうから、政府としては10年間平均で毎年1%程度のインフレを前提にしています。これでGNIの実質成長率は、1.96%(=名目GNI2.96%−インフレ率1.0%)になります。この実質2%弱の経済成長を、GDPに加えて海外からの利子や配当収入も含めたGNIで達成しよう、という話です。

ポイントは「1人あたりのGNI」(海外成長と人口減少を織り込む)

 閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針の中に、以下の記述があります。

 GDP の成長に加え、投資収益の拡大などを通じて海外からの純受取が増加する。比較優位産業の成長により輸出競争力が強化されるとともに、省エネ・省資源や海外の資源権益確保などにより輸入品に対する価格交渉力が強化される。交易条件を改善するこうした取組の強化により、実質国民総所得(実質GNI)が中長期的に年2%を上回る伸びとなることが期待される。

 ここ10数年、日本の製造業は生産拠点を海外に移しています。またここ数年はエネルギー輸入額の増加などでモノの取引の貿易収支は赤字ですが、海外でのもうけを日本に配当や利子という形で還元されている所得収支は大きく黒字になっています。

 海外利得は為替変動でも変わります。この先、今の円安基調で安定すれば収支は以前よりは増加します。実際、平成25年4月の海外経常収支は昭和60年以降、最大の2兆1160億円だったそうです。また、米国産シェールガスなどのLNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)権益が確保できたこともプラス要因を前提にしています。このような背景からGNIはGDPより、日本企業が世界に進出してビジネスを展開するようになった今を反映できる指標と言えます。

 また「1人あたり」というのは人口減少を見通した指標です。GDP成長率は全体の経済規模の成長度合いを示しますが、1人あたりのGNIなら、もし全体の経済規模が伸び悩んだとしても、人口減少傾向の日本では金額ベースでは伸びる可能性もあります。1人あたりのGNIが増えれば、国民は豊かになっていると言えます。