すべての仕事は道に通ずるMBA僧侶が説く仏教と経営(2/2 ページ)

» 2013年06月04日 08時00分 公開
[松本紹圭,GLOBIS.JP]
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あなたにとって、仕事とは何ですか?

 もうひとつ、無常観もあります。

 東日本大震災で再び思い知らされるところとなりましたが、日本人は大地震や火事など天災・人災にしばしば苦しめられてきました。積み上げた努力も天変地異を前にして為す術はなく、何もかもが一瞬にして水泡に帰します。人生は常に死と隣り合わせ。所詮(しょせん)この世はつかの間の浮き世、死んで持っていけるものなど何ひとつありません。

 世の無常を観ぜずにはいられない日本人の宿命を、仏教思想が支えてきました。諸行は無常。人は皆、生まれて老いて病み、そして必ず死ぬ。一切は移り変わり、留まるものなど何ひとつない。この動的な現実を、静的な認識力で捉えようとするところに苦しみが生ずる。瞬間は常に動的であり、固定した実体はどこにもない。それなのに、変わらない確かなかたちにとどめようと徒労に明け暮れるのが、人間の迷いの姿である。と、仏教は示しています。

 変わらないものなど何ひとつない。形あるものは必ず壊れる。このような国でなされる仕事の意味は、商品やサービスなど仕事から生み出されるものそのものよりも、仕事を通じて成長する人の生きざまに置かれてきました。

 さて、現代はどうでしょう。グローバル企業が力を持ち、国境を超えて人材が流動する社会へと変化するにつれて、欧米的なビジネス感覚で職業が語られるようになりました。今までのように日本的な自然観・無常観に基づく職業観が、暗黙のうちに通用することはなくなってきます。しかし、このようなグローバル時代だからこそ、自らの心性に深く根差した価値観を軸として意識しなければ、根無し草になってしまいます。ビジネスパーソンが世界に出たとき「あなたの信仰はなんですか?」と聞かれ、答えられずに信用を失ってしまったという話を聞くことがありますが、宗教に関わらず自分の中の価値観をしっかりと自覚することによって初めて、多国籍の人材と交わる柔軟性や魅力が生まれるのです。

 今こそあらためて、自分の仕事に対する態度や覚悟を明らかにして、世界中どんな人にも伝えられるように準備する必要があるのではないかと思います。そうしなければ、知らずしらずのうちに自分と仕事の関係にゆがみが生まれ、グローバル化の流れに絡めとられてしまうかもしれません。

 あなたにとって、仕事とは何ですか?

社会人の学び

松本紹圭(まつもと・しょうけい)

1979年北海道生まれ。浄土真宗本願寺派光明寺僧侶。蓮花寺佛教研究所研究員。米日財団リーダーシッププログラムDelegate。東京大学文学部哲学科卒業。超宗派仏教徒のWebサイト「彼岸寺」を設立し、お寺の音楽会「誰そ彼」や、お寺カフェ「神谷町オープンテラス」を運営。2010年、南インドのIndian School of BusinessでMBA取得。現在は東京光明寺に活動の拠点を置く。2012年、若手住職向けにお寺の経営を指南する「未来の住職塾」を開講。著書に『おぼうさん、はじめました。』(ダイヤモンド社)、『「こころの静寂」を手に入れる37の方法』(すばる舎)、『東大卒僧侶の「お坊さん革命」』(講談社プラスアルファ新書)、『お坊さんが教えるこころが整う掃除の本』(ディスカヴァー21社)、『脱「臆病」入門』(すばる舎)など。


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