橋下市長の慰安婦発言、米国は本当に痛烈批判しているのか?伊吹太歩の世界の歩き方(3/3 ページ)

» 2013年05月23日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]
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実際のところ、橋下発言は大した話題になってない

 テレビ局で、サキ報道官の発言(とは言っても、彼女は用意されていたらしい原稿を読んでいたのだが)を、ここぞとばかりに大げさに取り上げたのはTBSだった。

 TBSは「米が痛烈批判」とするニュース映像で紹介。だがその報じ方は煽りぎみだ。ニュース映像を見ると、いかにも「米国ひいては世界を敵に回した市長」と言わんばかりだが、実際のところ、橋下市長の発言はAP通信や英BBCなど大手メディアで取り上げられたものの、欧米では大した話題にはなっていない。もちろん韓国メディアは別だが。

 国務省の件に関して言えば、報道官が毎日のように行う定例会見で、いち日本メディアの記者が質問したことは、よっぽどのことでもない限り、外国メディアがいちいち記事にしたりはしない。ちなみにこの日の会見では、先日行われたパキスタン総選挙についての質問や、台湾漁船がフィリピン沿岸警備隊の銃撃を受けた問題、シリア情勢についての質問が飛び交った。

 もう1つ、この騒動で気になることがある。サキ報道官の発言を報じたTBSのニュースなどで、以下のような一文を目にした。

国務省の高官は橋下氏の発言について、「国務省で働く人間の多くが腹を立てている」と明かしています

 これだけなら、「なるほど、米国務省の職員たち大勢が橋下発言を把握しており、しかも怒り心頭だ」となる。それほどまでに国務省内では大阪市長の発言が話題になっているということなのだ。

 また次の記事を見ていただきたい。5月18日付けの朝鮮日報(日本語版)だ。

韓国や中国などの当事国が強く反発しているのはもちろん、米国も背を向け始めている。「(米国)国務省の建物にいる全員が日本の発言に気を悪くしている」(国務省当局者)という話が聞こえてくるほどだ

 同じ関係者に取材したのではないかと思われるほどTBSと似通ったコメントだ。朝鮮日報が「全員」と言っても、間違いなく「当局者」は全員に話を聞いていないだろうからお話しにならないが、ニュアンスは非常に近い。日本の新聞社でも同様のコメントが掲載されていた。

 この当局者のコメントに「?」と感じるのは、著者だけではないだろう。本当に国務省内でそこまで話題になっているのだろうか。「多くの職員」は、どの部分に怒っているのか。どの立場の人物が、国務省の「多くの人」の意見を知り、代弁しているのか。そのコメントを掲載したTBSや新聞社は、確認作業をしたのか。

 ちなみに産經新聞は、「国務省の多くの職員が侮辱されたと感じている」と、国務省高官のコメントを掲載している。ん? この「高官」と「当局者」はもしかしてサキ報道官のことで、会見後にみんな一緒にオフレコで話を聞いたから、みんなが匿名筋の似たようなコメントを載せているのか? よく見ると、各社のコメントの違いは、先に述べた翻訳における「ニュアンスの違い」と同じような差異ではないか? 茶番?

 よもや大手メディアがそんな分かりやすい稚拙な情報源保護はしないだろうが……。とにかく、メディアといえども民間であり商売であることは重々承知しているが、一応、日本人の「知る権利」を担って米国務省の記者会見に出たり、政府関係者と話ができる立場にあるという自覚を、日本の大手メディアの記者たちには持ってもらいたいものだ。

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