橋下市長の慰安婦発言、米国は本当に痛烈批判しているのか?伊吹太歩の世界の歩き方(1/3 ページ)

» 2013年05月23日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

著者プロフィール:伊吹太歩

世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材し、夕刊紙を中心に週刊誌や月刊誌などで活躍するライター。


 最近めっきり露出の減っていた橋下徹 大阪市長が、問題発言で物議を醸している。

 橋下市長は5月13日、「銃弾が雨嵐のごとく飛び交う中で、命をかけて走っていくときに、どこかで休息をさせてあげようと思ったら慰安婦制度は必要なのは誰だって分かる」とコメント。米軍の司令官に対して「もっと風俗業を活用してほしい」と言ったとも発言した。その後、一気に橋下バッシングが始まった。

 もちろんこの発言はあまりにも低次元で、一部で言われるように「話題づくり」にしては稚拙だ。彼の発言が批判されるべきものであることは間違いない。ただ、それ以上に、今回の騒動での外国、特に米国の反応を報じる日本メディアの報道が、皮肉にも日本メディアの問題点を見事にあぶり出した。

朝日新聞記者が行った、米国務省の報道官への質問

 5月17日、新聞各社は夕刊で、橋下市長の発言に対する米国務省のコメントを一斉に掲載した。というのも、米国務省の定例会見(5月16日)で、報道官がこの発言についての見解を聞かれ、米国の立場を述べたからだ。

 定例会見で橋下市長の発言について質問したのは朝日新聞の記者。質問は2つのみだったが、どんなふうに質疑応答が行われたのか(参照リンク)。全文を極力直訳すると以下のようなものだった。

朝日新聞記者の質問: ども、私は日本の新聞、朝日のタカシです。大阪の橋下市長が最近、いわゆる「慰安婦」問題について、道徳的観点の価値からは受け入れられないが、慰安婦は戦時には欠かせないもの(necessary)だと主張する発言をしました。そして彼はまた、売春によって性的サービスを提供されていた他の国の軍もあるのだから、日本だけが米国やほかの国から批判されるのは公平ではないと主張しました。米国は彼の発言、または米国に対する批判に対してどういう立ち位置でいますか。

Hi, my name is Takashi from Japanese newspaper Asahi. Osaka City Mayor Hashimoto recently made a comment on the so-called “comfort women” issue, arguing that even though it is unacceptable from the moral perspective value, but the comfort women were necessary during the war period. And he also argued that it is not fair that only Japan is criticized by the United States and other countries, because there are other country military that were provided sexual service by prostitute. And do U.S. has any position on his comment or criticism against the United States?

米国務省 ジェニファー・サキ報道官: 発言は、もちろん、把握しています。橋下市長の発言は言語道断(outrageous)で不快(offensive)です。前にも述べたように、当時、性的な目的で人身売買されたこうした女性に起きたことは、嘆かわしく、明らかに相当に重大な人権侵害です。被害者たちには、あらためて、心からの深く同情します。そして日本が周辺国とともに、過去からのこの問題やほかの問題について取り組み、また関係国が前進できるような関係を深めるために努めていくことを望みます。

We have seen, of course, those comments. Mayor Hashimoto’s comments were outrageous and offensive. As the United States has stated previously, what happened in that era to these women who were trafficked for sexual purposes is deplorable and clearly a grave human rights violation of enormous proportions. We extend, again, our sincere and deep sympathy to the victims, and we hope that Japan will continue to work with its neighbors to address this and other issues arising from the past and cultivate relationships that allow them to move forward.

同じ朝日新聞記者の質問: この問題を、性奴隷または慰安婦、どう表現しますか?

Do you describe this issue sex slave or comfort women?

サキ報道官: 再びになりますが、それを定義するかは分かりません。あなたが細かな詳細を示したようですが、われわれは過去にこの問題を慰安婦と表現しています。

Again, I don’t know that I’m going to define it. You kind of laid out the specific details there, and we have described this issue in the past as comfort women.

 2つ目の質問には違和感を覚える。すでにある程度一般化している「慰安婦」を、「性奴隷」と呼ぶ可能性はないのかと、サキ報道官に問いかけているのだ。2つしかできない質問で、2つ目にこれをもってくる理由はよく分からない。「朝日のタカシ」氏は、この質問から何を言わせたいのだろうか。

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